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「愛らしい人をデートにお招きくれませんか?」
いつまでもお茶目な彼女の話し方。こんなところにも三年会えなかった懐かしさがある。そして古い思い出も有る。
「もちろん。良かったら僕とお茶でもどうですか? だけどお店は知らないから君が選んでね」
僕が手を差し伸べると、彼女はニコッと笑って僕の手を取ってくれた。こんな風景は遥か昔に見た気がする。
それから彼女は「どーしよーっかな?」と僕の前を楽しそうに歩いて行き先を考えている。
「そうだ! こんな時はあそこだよねー!」
最高の笑顔が更に輝く。彼女が選んだのは道路沿いの商店にあるごく普通の自販機だった。
「お洒落なカフェとかでも良いんだよ?」
「そんなのは、この場所に勝てなーい!」
彼女が気を使ったと思って今度は僕が膨れてたが、そんな言葉も気にしないで彼女はレモンティーを選ぶ。ノスタルジックな柄の缶が僕の記憶をタイムスリップさせる。
「もしかして、この自販機覚えてないの?」
眉間に皺を寄せている彼女の言葉と一緒に雨が降り始めた。
僕たちは少しだけあった軒で横に並ぶ。パタパタと降る雨は続かないのを僕は知っている。
「覚えてるよ。この雨はもう直ぐ止む。そうしたら天使が現れるんだ」
スペースの無い軒下で僕は首だけを横に向けて彼女を見ると、彼女は顔を赤らめて軽く俯いていた。
「あたし、あの頃と一緒だよ。もう一度言うね。貴方のことが好きです。こうして百年でも寄り添いたい」
顔を挙げて僕を見た彼女は、懐かしすぎる久し振りの告白を語る。
あの時は直ぐに返事をしなかった。すると彼女は困ったみたいにまた俯く。今だってそう。
すると雨が止む。夕暮れに近付いた少しオレンジになった光が彼女の横顔を照らす。
「僕は千年でも君の笑顔を見てたい」
少し弱まっているお日様に向かって僕は呟きみたいな言葉を放つ。彼女を見れなかったのはこんな言葉が照れ臭かったから。
だけど、彼女は僕の顔を見るため正面に回る。きっとあの時の僕は真っ赤な顔をしてたんだろう。今もそうかもしれない。あの頃と同じで彼女がニコッと笑う。
輝かしい光を背負っている彼女の姿はまだちょっとだけ残っている雨粒が煌めいてこの世のものではない美しさを持っている。こんな姿を見たのは僕だけ。天使を見た瞬間。それがもう一度現れてた。
「本当に君は天使だ」
「そうだろうか? 昔は悪魔的って言われたけどね」
「うん。それも間違いじゃない」
特に久し振りなシーンを演じた僕たちはそれからまた歩き始める。彼女の疑問に僕が賛同すると「なにをー!」と彼女が僕を蹴る。こんなのは日常茶飯事。だけど、彼女の愛情表現でもある。こんな時間が楽しくて愛おしい。
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