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「空手有段者なんだからそんなに簡単に人を蹴っちゃダメでしょ? あの時はごめん」
今は素直にあやまる。多分あの時もこうしていれば彼女なら許してくれていただろう。あくまで多分だけど。
「あの喧嘩は後世に語り継がれるね」
「ホントだよ。だけど、翌年は忘れてなかったでしょ? 望んでた言葉も含めて」
「忘れてたら蹴りだけじゃ済まないよ。だけど、うん。嬉しかった」
まだ笑ってる彼女の姿が更に恐ろしい。とは言え僕はその次の年の同じ日はこの記念日を忘れなかった。
「仕事が忙しくなったけど、同じ轍を二度も踏めなかった。もしかしたらキック記念日と呼ばれてたのかも」
「だからあんなサプライズを用意したの?」
キョトンとしている彼女が居る。そこはもうあの海の見える公園だった。
「去年はこの場所で蹴られたんだよね」
「それは貴方がひどかったから」
一年という時間は僕たちにあの事件を笑いにするだけの力があった。
「もう付き合い始めて三年になるのか」
「そうだよ。記念日を覚えてると良いことあるでしょ?」
「更に記念を増やす気はない?」
キック以上の記念。僕はとても強い決心を持っていた。
「付き合えただけで充分だよ。嬉しいんだから」
「そうは問屋が卸さない。こっちを向いて」
楽しそうに歩いてる彼女を僕は呼び止めた。今はもう全て知っている筈の彼女なのにあの時と同じ行動をしている。これから振り返って驚くんだろう。だって僕もあの時と同じことをしているのだから。
僕の手にはいつの間にか小さな箱があった。昔は彼女にバレないか、喜んでくれるかとドキドキしていた。でも、今でもちょっと鼓動は高い。
振り返る彼女は、跪いている僕を眺めて声もないみたい。もう状況は把握しているんだろう。全てがあの時のまんま。
「千年でも一緒に居たいって話したけど、足りない。死んでも永遠に二人寄り添いたいよ」
僕は指輪を彼女に差し出しながら随分と考えた言葉をいう。流石にこれだけは忘れられない。そのくらいに考えたから。そしてこの後の彼女の表情がとっても素敵だったから。
「冗談じゃないんだよね?」
呟く彼女は一言確かめると、涙を流す。でも、それは悲しみなんかじゃない。笑顔に良く似合っている嬉し涙だ。煌めく彼女の笑顔が見えた。そして僕のプロポーズは成功して、僕たちは結婚にすら続く。
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