恋人時間

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「こんなのをまた言わされるとはな」 「良いじゃない。あたしは嬉しいよ。その想いも昔と一緒だと思うと」  久し振りの風景を眺めて今も笑ってる。彼女は美しい。 「あれから六十年以上一緒に居たね」  僕たちの人生はそれからもずっと一緒に流れた。子供が生まれ、年老いて、孫やその下の世代。そして彼女との時間。かけがえのない思い出。 「まだ寄り添ってくれるの?」 「死んでもって約束だからね」  天国の僕たちはこんな風に昔を懐かしんでいる。愛しい人と一緒に。こんな時はどんなに続いても全く苦にはならない。嬉しいばかりだ。 「守ってくれて、ありがとう」 「例え死んでも愛は続くよ。だから僕はどんな言葉でも紡ごう。詩でも短歌でも俳句でも歌でもカンツォーネだって。もし恋のうたじゃなくても愛ならそれで良い。君に届けたいよ」  これは昔にはなかった言葉。だから彼女は横でクスクスと笑ってる。長い付き合いの僕にはわかる。彼女は喜んでる。笑顔がその証。 「あたしも貴方を愛してます」  返ったのは簡単だけどこの世で一番の愛の言葉。  彼女の肩を抱き寄せもうない昔の風景に僕らは居る。 「さて、これからの僕たちの人生は子供たちも居るんだよね。話は長くなりそうだ」  僕はまだ彼女と、僕らのことを話したいと思ってた。だけど横の彼女は「ふーむ」とつまらそうな返事をする。僕は首を傾げて彼女を見る。 「それも楽しいけど、まだあたしたちだけの時の話をしようよ。まだ恋人時間だ!」  若く元気な彼女が飛び跳ねている。 「そうか。そうだね。彼らがこっちに現れるまでまだ時間がかなりあるだろうから」  僕も納得して微笑ましく彼女を眺めながら頷く。すると彼女はまた歩き始めて一度立ち止まり振り返る。 「まだずーっと一緒に話そうね」  ちょっと照れてるんだろう。頬が赤い。でも、その表情に僕はまた惚れた。どれだけ年月を超えても彼女は素敵だ。僕はこれからも彼女を好きになる。 「語ろうか」  次の話を考えながら僕は歩く。まだ時間はこれからも続いて進むのだろう。尊くてなお嬉しいそんな綴りなら。 おわり
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