ヒロイン、貴族になる

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*************  ちなみに今回の主人公は、ヒロイン偏差値75の私の方である。  ピンクブロンド色の髪に若葉色の瞳が愛らしい! 妖精と見紛うほど可愛らしさが止まらない、そう我こそが! この物語のヒロインである。  私のヒロイン史の始まりは、やはり”村一番のべっぴんさん”に君臨していた頃からである。  旅の商隊が通りがかる街道の傍にあるだけの、なんでもない小さな村だった。通りすがりの様々な村や街を見てきた商人が私を見かけて二度見三度見で「これはまたべっぴんな子どもだ」と驚くほどだったそうだ。  それはもう、立てばべっぴん・座ればべっぴん・歩く姿はべっぴんさんだったと聞く。いつ、どこから見ても隙なしのべっぴんさんである。  冒頭から飛ばしているが着いてきているだろうか。  私の輝かしい肩書が”何の変哲もない村一番のべっぴんさん”で終わらなかったのは、またもや通りがかった商隊の中に紛れていた魔術師が私の内なる魔力に気付いたからだった。当時9歳になろうかという頃だった。  その衝撃は小さな村をあっという間に駆け巡り、村一番のべっぴんさんは貴族の子だったのか!と、私と小さな初恋を育んでいたはずの村長の息子が息を切らしながらそう教えてくれた。  この大陸では平民はもちろん貴族に至っても、ほとんどの人間に魔力はない。  しかし、貴族の中でも一握りだけ魔力を持つ人間がいる。と、魔術師が教えてくれた。  私としては魔力うんぬんよりも、何かと私を担いで歩く父や、私の髪を結うのが趣味な母、そしてまだ幼く可愛い盛りの弟や妹たちが実の家族ではなかったことが衝撃だったのだが、あれよあれよとなにがどうしてそうなったのか貴族に引き取られることとなったのだ。  高貴な身分の実の父母が涙を流しながら立派な馬車で迎えに来て涙の再会。いざ!お貴族様の住まう高貴な場所へ!というわけでもなく。  ”立派な荷馬車”に単身で乗り込み、育った村や家族、そして初恋との別れを経験したのだった。  荷馬車はガタゴトと景色をゆっくりと変え、私の涙を乾かすには十分な旅路だった。  というか、貴族の家に迎えられるというのに御者との二人旅で、やることが多かった。寂しいと泣いている時間も無く、同じぐらいの子どもがいると言っていた御者に「見つかってしまうとは、お嬢ちゃんも運が悪かったな」と不吉なことを言われ頭をぐりぐりと撫でまわされていたが、それどころではなかったことは覚えている。  そして後からわかったのだが、私が最初にお世話になったのは下級貴族の男爵家だった。  小さな村で育った私には上級も下級もわかるはずもないが、平民とは明らかに違う大きさのお屋敷に圧倒された。  口を開けてお屋敷を眺める私が乗った荷馬車は正面ではなく裏口へ入った。もちろん当時は裏口も立派な入口に見えていた。  御者は屋敷の中へ入っていき、使用人長という人を呼んでくると言っていた。  待っている間、キョロキョロと好奇心で荷馬車から顔を出せば、私に注がれる大人たちの嫌な視線に思わず荷馬車の影へ隠れる。ここでやっと、なんてところに来てしまったのだと後悔したもんだ。  子どもらしくぷるぷると怯え隠れていると、ひょこりと小さな頭がこちらを覗きに来た。  好奇心旺盛な目の色に一瞬怯んだが「なんだ、化け物じゃなくて可愛い女の子じゃないの」と、どうやら怖いもの見たさでやってきた子どもたちがコソコソと言い合いを始めていた。  男爵家には使用人の子どももおり、同年代の子どもたちに連れられ一足先に男爵家の敷地にのこのこと連れられたのが運命の分かれ道だった。
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