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どうやら魔力は体力のようなもので、魔力が枯渇すると身体を守る機能が弱くなるようだった。前世は魔力が枯渇したことなんてなかったので知らなかったなぁ。
ふぅふぅと言いながら寝ていると、ジニーが様子を見に来てくれた。
そしてやっと”アンネリーゼ守り隊”の面々の様子を知れたのだ。
「アンネリーゼ様ぁあ!!!」
もう泣き始めているアニーの後ろからいつもの面子がひょこりと顔を出す。
「おお、顔がリンゴみてえに真っ赤」
「毛布のかけすぎなんじゃないっすか?」
「みんな!無事だった……のね?無事だったのよね?」
アニーはいつも通りだが、ジョンとアッシュはなぜか顔が倍に腫れている。川に飛び込んだ後に何かあったのだろうか。
二人はそろりと目を逸らしたので真相は闇の中だ。ただジニーに今回の旅の功労賞は彼等四人であると絶賛したのは感謝された。これだけで済んだから、と不穏なことまで聞こえた気がした。ジニー……?
「ユ、ユーリはどう?痛いところない?」
遠い目をする二人の後ろ、いまだ扉の前にムスッとした顔で立つユーリに話を向ければ何か言っているようだった。
「いつまでそこにいるんすか」
「遠すぎて聞こえねぇってよ」
「ほら、近くでちゃんと言いなさい。私たちは聞かないから」
ほらほらと押し出されたユーリはベッドのそばに立っても、ムスッとしたまま私を見下ろしている。でも近くで見れば、ユーリの青い瞳が揺れて見えた。
「ユーリもジニーに叱られたの?」
「……げんこつもらった」
後ろから「お前、言うなよ!」「その後、潰されるかってぐらい抱きしめられて気絶してたっすよ」とガヤが入ったが、聞かないんじゃなかったのか。
「ふふふ。心配かけちゃったもんね。身体は平気?痛いところはない?」
「…………ちょっと怠いけど、平気。アンネリーゼお嬢様は」
口を開いては閉じてを繰り返すユーリの瞳の揺れがどんどん大きくなっていく。どうやら心配してくれているらしい。言葉をかけたいのに上手くいかないもどかしい様子を見ていると、なんだか胸がポカポカとしてくるようだった。
ユーリの瞳が落ちてしまう前に、たまらなくなって手を伸ばす。
腕が短くてユーリには届かなかったが、その分ユーリの手が私の手を迎えに来てくれた。
ピクニックの間中、ずっと繋がれた手はとてもあたたかかった。
「ユーリ、こうして手を繋いでくれていたわね。とても心強かった。ユーリが手を繋いでくれていたから、なんでも出来そうな気がしたの。できない、無理、怖いって何回も思ったけど、必ずユーリがこうやって手をギュッとしてくれたから。ユーリは私の心を守ってくれてたのね」
本当に、ユーリがいたから川に飛び込むなんて暴挙が出来たのかもしれない。本当は対岸に行くつもりだったんだけどね。
いつも生意気な顔をしているくせに、今日のユーリは目がまん丸になっている。
「ありがとう」
そう伝えると、繋がれた手がぐっと熱くなった気がした。
「アニーには色んな心配をかけたわ。アニーが言ってくれた中には厳しいこともあったけど、期待してくれてるんだなって思えて嬉しかったわ。まだまだ心配させちゃうかもしれないけど、期待に応えられるように頑張るわ。だからまた春にもピクニックに行ってくれる?」
アニーはもう涙を拭くこと諦めたようで、また行くんですか?と困ったように笑っていた。
「アッシュはとってもよく周りを見ているわね。私が考えなしにしたいって言ったことを、頭ごなしにダメだって言わないで、どうしたら出来るかって考えてくれて嬉しかったわ。次は熊も鷹も蛇もいないところがいいな」
アッシュは照れくさそうに、人使いが荒いとぼやいた。
「ジョンはとっても力持ちだね。いつも運んでくれてありがとう。今度はジョンが倒れたら私がおんぶしてあげるね!!」
「俺だけ雑だな」
ジョンの鋭いツッコミに、皆が弾けるように笑う。
肩を寄せ合う皆の顔を見て、もう心がムズムズする。これはなんだろう。あれだな、これがいわゆる”青春”ってやつなんじゃないか!?仲間、友情、青春なんじゃないか!?
「あぁ、死んでもいい……」
ぷしゅーと音が聞こえるんじゃないかというぐらい身体が熱い。熱か?熱だな。
「お、おい、死ぬな!春のピクニックに行くんだろ!」
「熱が上がったのかしら?」
ペタリとおでこにユーリの手が乗る。その上におろおろとした様子のアニーが。ニヤニヤした顔でアッシュが。最後につられたジョンが。ペチペチと重ねられていく。これってもしかして、もしかして!
「か、かたまりだ~!」
塊で皆のことが見えないが、どうやら笑っているらしいことは伝わってくる。あと、重みで頭がベッドにめり込みそうなんですが……?
────ヒロインは求心力がある。そういうものなのだ。
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