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ぐっと拳を握り噛みしめていると、ユーリが物々しい表情で重心を低くして構えた。急に暴れたりしませんけど?人のことを狂犬かなにかだとでも思っているのだろうか。心外だ。
まあ、なぜ私がこんなにアリアお母さまの情報を集めているかというと、ひとえに男爵家攻略のためである。
現在の攻略図によると、一人を除いて使用人からベンお父さままですっかり私にデレデレである。アリアお母さまに似ているから受け入れられている側面は無視出来ないが、結果的に攻略は進んでいるのだから万事良好である。
その攻略図の最後の砦……そう、そのアリアお母さまである。
血の繋がりという因縁、最後にして最強の敵。
なかなか滾る設定である。本で読んだことあるわ。
そこらへんに落ちていた木の棒で畑にワクワク攻略図を書いていると、棒の先に何かが引っかかり文字が歪む。
我が攻略の計を妨害するとは何奴!と棒で土を返せば、そこにいたのは……ミミズだ。
ひぃ!と勢いのまま、魔術でミミズを飛ばす。
哀れ私の前に出てきてしまったというだけの推定善良なミミズは風のように飛び、アッシュの肩へと落ちた。
遠くの方でアッシュが叫びジョンが笑っている声が聞こえたが、知らんふりをして下を向く。
ユーリにチラッとこちらを見られたが、何かあったら私のせいだと思うのはどうかと思う。今回は私なんだが。
強めに疑われている視線を感じるが、決め手にかけるようだ。
それもそのはず。この邸内においては、証拠(魔術)が見えないのだから!
説明しよう。
この大陸のほとんどの人は魔力をもたない。
魔力を持っているほんの一握りの人間でさえ、体内にある魔力を発現させ、自由自在に扱えることは限りなく稀なのだ。
そして、もちろんこの男爵家敷地内には魔力を感知出来る者はいない。なので、私が隠れて魔術を使っていても誰も気付かないのである。気付かなければ無かったことと同じ。冴えている。さすが天才魔術師だっただけある。
……まぁ、今世は保有魔力が少なくてミミズを飛ばすだけで精一杯なんですけど。
説明終了。
平民として楽しくくらしていた私は、こんな微々たる魔力があるということで貴族の家に引き取られた。これだけでどれだけ魔力保持者を確保しておきたいかが伺える。
それなのに。初対面時から薄々気付いていたが、どうやらアリアお母さまは私を歓迎していない。引き取っておいて歓迎しないのはなぜなのかわからなかったが、皆の話を聞いて気付いてしまった。
───どうやらアリアお母さまは、私を憎んでいるらしい。
余計な真似をすれば故郷の村を焼いてやるだの脅されたり、顔を合わせれば睨まれ、チクチク嫌味攻撃、ベンお父さまとの接触は妨害され。納得の結論である。
アリアお母さまから見れば、私という存在は”汚点”なのかもしれないしね。魔力のせいで手元に戻すことになって嫌々、渋々というところだろうか。
つまり、私は魔力があるだけでも「余計なことをしている状況」であって、魔力が少ないとはいえ天才的に魔術を操れるなんて知られたら、村をこんがり焼いて八つ裂きにされるかもしれない。
まあ、私も今世で求めているのは「そこそこ」の人生だ。
【隠し子が類まれなる魔術の天才だった件~俺、また何かやっちゃいました?~】は、一生隠しておこうと決意した。利害の一致だ。
アリアお母さまも私も、魔力至上主義社会の被害者である。いわば仲間。
利害が一致して、決意もして、仲間だというのに。
「───アンネリーゼ、馬鹿は嫌いだって言ったでしょう」
私、また何かやっちゃいました?
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