ヒロイン、救済する

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 ガガーンとショックを受けた顔に機嫌が良くなったのか、アリアお母さまは顎をツンと上げた。 「小賢しい女の子は好かれないわよ」  ぐぬぬぬぬ。私は小賢しいのではない。”大賢しい”なのだ!それを下品だなんて、やはり聞き捨てならない。あれか?自分より頭の悪い子の方が可愛いとかそういうことか?それは嫉妬というのですよ、アリアお母さま。  前世でも私の天才っぷりに嫉妬して「可愛くない」だの「女は少し抜けている方が」など悔し紛れの捨て台詞を言う人間は山ほどいた。そういうことを言う人間の言う”かわいい”は見下して愛玩する方の”かわいい”なのだ。  やれやれと顔を振れば、アリアお母さまのこめかみがピクリと揺れた。 「私はカッコ良くて可愛い女の子を目指しているんです。まさにアリアお母さまのような……!」 「───それが小賢しいと言うの」  ぶわりとアリアお母さまの方から圧のようなものを感じ、身を固くする。  アリアお母さまは魔力が無いので、これはアリアお母さま自身の培ってきた”有無を言わさず相手を従わせる”能力なのだ。  さすが祖にして最強の敵、圧巻である。  その威圧を受けて、私は怯えたように押し黙り顔を伏せた。  大人しくなった私に溜飲を下げたのか、威圧を下げてアリアお母さまはティーカップに口をつける。  ふるふると身体を震えさせながら、新緑の瞳を覆うように留まる涙を堪えアリアお母さまを見つめ返した。 「……アリアお母さまに、ほめてもらいたくてお勉強をがんばりました……欲張っちゃってごめんなさい……。でも、ちょっと、頭を撫でてもらえたらって……願ってしまって……っ」  今のところ負け知らずの秘儀【庇護欲を誘うような小さな訴え】に、アリアお母さまは冷めた目でティーカップを下した。   「なんなの、その気味の悪い演技は」 「アリアお母さまの真似です。ベンお父さまは似ていると」  ウルウルおめめをスンッと引っ込めれば、アリアお母さまは盛大にため息をついた。  ここにジニーがいたら泣き崩れてしまうであろうほど健気な美少女だっただろう。そうだろう。目どころか飲み込んでも痛くないに違いない。孫だからな。 「はぁ……だから子どもは嫌いなのよ」 「嫌いだから私を”母さん”にあげたのですか?」  ま た や っ た 。  ついつい思ったことが口をついて出てしまう。こういうところが小賢しく、”愚か”なのだろう。  先ほどまで私に向けられていたのは、獅子の尻尾にたかるハエ程度のものだった。  しかし、私の余計な一言でアリアお母さまの表情が抜け落ちた。これはどうやらアリアお母さまの尾を踏んでしまったようだ。  ────ヒロインはうっかり失言しがちなのだ。物語の展開上。
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