ヒロイン、媚びる

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 そんなことを考えながら、自室で転がっていたところ。扉の鍵が開けられる音が聞こえた。慌てて椅子に座り直し、あたかも刺繍をさしていましたというような姿勢を作る。もちろん、途中まで魔術で刺した刺繍である。魔力切れでよく眠くなるので軟禁生活にうってつけである。  扉から顔を覗かせた黒髪で誰が来たかわかってしまった。 「おチビさん、調子はどうかな?」 「ベンお父さま!」  シーっと指を立て、音も無く部屋に身を滑らせた。 「おチビさんの好きなお菓子を持ってきたんだ、ちょっと休もう」 「わぁ!ベンお父さま、大好きです!」  無邪気な子どものように飛び上がり喜んで見せれば、ベンお父さまは更に目を垂れさせてデレデレといった風だった。  ちなみに私はお菓子の類があまり得意ではない。好きなものはクルミだ。あの、素朴かつ(誰かの)手がかかるところがたまらない。  最初はもっぱら近くにいるユーリに渡すのだが、私とユーリは貧弱仲間なので結局ジョンに割ってもらっている。ユーリはクルミを素手で割ることを諦めていない様子なのがさらに可愛い。最高最強の贅沢品である。 「聞いたよ、教師たちが君を褒めていたってね。まるで神童だと。よく頑張ったね」  私の頭を撫でるベンお父さまの大きな手に頭をやや近づけながら、ハニカミ笑顔を見せておく。神童だなんて。へへっ。アリアお母さまにはベコベコにされた後なので、褒めが五臓六腑に染み渡る。これだよ、これこれ。くぅ~。 「アリアが同じ年の頃なんて勉強なんて全くしていなかったんだ。座っていられない!なんて言ってね。あれでいて昔はお転婆でね……はは、お転婆なところは一緒だね」  ベンお父さまの目は私を通して昔を思い出しているのか、なんだか陶酔したような色っぽい溜息が落ちてきた。よほど昔も今もアリアお母さまにぞっこんらしい。やはり一途な幼馴染は良い。コクンと頷いた。 「────本当に、神童とは言い得て妙だ。親に似たのだろうね」  ゾクリとするような声色に、思わず全身の毛が逆立つ。
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