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勢いよく視線を上げれば、引き続きうっとりとどこかを見ているベンお父様がいた。やはり一途な幼馴染は長年の恋が煮詰まってちょっとどこか思いつめた仄暗い部分がある、ということなのだろうか。そこも良い。また一つ、コクンと頷いた。
「そろそろ外に出られるといいのだけどね。今回のアリアの怒りは相当なものだから……今度は一体、何をしたんだい?」
いつもいつも申し訳ない限りである。
毎回のように、アリアお母さまに口答えをして怒らせてはベンお父さまが仲裁に入るという流れが出来上がっている。
「私が悪いのです……どうしたら許してもらえるでしょうか……」
「そうだなぁ。ぎゅーっと思いっきり抱きしめて、可愛く謝ればきっと許したくなってしまうだろうね」
「ナ、ナルホド~」
ベンお父さまは森羅万象、全ての物事はハグで世界に平和が訪れると思っているかもしれない。なんてピースフル。でも前回の謝罪ハグは耳元で舌打ちされているので全力で回避したい。
「そうだ、では私とアリアへの贈り物を選びに行くのはどうかな。内緒で準備をして驚かせよう」
プレゼント、これすなわち平たく言えば賄賂なのではないだろうか。古今東西、これで懐を温め、どうかお目こぼしをよろしくどうぞしてもらう方法といったらコレであったはずだ。
こ れ だ
こうして、内緒でベンお父さまと街へお出かけに行くことになった。やっと軟禁生活からの脱出である。
────ヒロインは救われるために捕らわれているのかもしれない。逆に。
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