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ド、ド、ド、と鼓動が速い。
これは私の上に寄りかかっているユーリの鼓動だ。緊張感が私にも伝わってくる。
ベンお父さまが陶酔するようにどこかを見上げて語っている間に、ユーリが私を縛る紐を解こうとしていたからだ。
気づかれないように、慎重に。
でもユーリも縛られていてなかなか上手くいかないようで、焦りが伝わってくる。
私も手伝おうと身じろぎすると、落ち着けと手を止めて私の手をゆっくり優しく撫でる。
同い年だというのに。ユーリはこんなに頑張っていて、良い子なのに。
悔しくて悔しくて、腸が煮えくり返っている!!だからユーリが落ち着けと言っているのかもしれない!!
「───まあ、全て過去の話だ。アリアは天上からぼくの元へ帰ってきた」
クルリと視線が戻って来て、ピタリと手が止まる。
「でもね、見てしまったんだ。アリアが、天上人に手紙を出してたんだよ」
ひどいだろう?と胸の中から手紙のようなものを取り出した。まるでアリアお母さまの手に頬ずりするかのように手紙に顔を寄せるベンお父さまは、はっきり言って気色悪い。
「……君のことが書かれていたよ」
急に話しかけれ、咄嗟に「うへぇ」という顔を隠してしまった。つい癖で……!
「またアリアが公爵家に行ってしまうかもしれないんだ。君さえいなければ、いつまでも二人きりだったのに。ぼくは常にアリアの気持ちを受け入れてきた。だから今度も、アリアが天上へ行きたいというなら。ぼくはまた、受け入れなければならない」
ぐしゃり、と手紙が握りこまれた。
よく見れば何度も何度もくしゃくしゃに握られ、また整えられたように手紙はしわくちゃだった。
何度も何度も、繰り返し葛藤したんだろう。
「でももう耐えられそうにないんだよ。アリアをとめられなかったから、君ができた。君が来て、ぼくたちをかき混ぜて、君が大人しくしていないから公爵家に目をつけられたんだ」
手の中の手紙のように。ベンお父さまの心も、もうぐしゃぐしゃに皺がついてどんなに綺麗に伸ばして戻そうとしても元に戻らないのだろう。
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