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元に戻らないならどうするかって?
「火が!」
ベンお父さまが握っていた手紙がボワリと燃えた。
手紙から炎が出ているというのに、ベンお父さまは手を放そうとしない。
手紙が消し炭にならないようにバサバサと必死なベンお父さまを見ながら、ゆらりと立ち上がった。
「つまり、アリアお母さまといつまでも二人で暮らしたいってそうおっしゃりたいんですよね?」
「おいっ……」
私の手を落ち着けと引くユーリの手を、逆に握り返す。
ビクッとユーリの手が揺れたが、ここは信用してほしい。
「それで、そんな理由で、こんな大掛かりなことを?」
「なんだ、何が起きている!?」
ムムムと腕に強化の魔術をかけ、パァン!と引きちぎる。
呆気にとられたベンお父さまの眼前にゆらりと立ち、千切れた縄の端を掴んでピシャァンとしならせ足を狙って引っ掻ける。
「『雲の上のまま、ぼく達とは違う世界でそのまま暮らしてくれればよかったんだ』!?それはこっちの台詞だわ!!!」
縄を魔術でベンお父さまに巻き付け、縛り上げる。きつめにね!!
ちょっと長さが足り無さそうだったので、ユーリの縄を解いてベンお父さまの拘束用に縄を足しておく。最初から縄を引きちぎらずに魔術で解けばよかったわ。
「勝手に捨てて、勝手に呼び戻して、また勝手に売り飛ばす!?あんたがやってるのはアリアお母さまを悲しませたヤツと同じかそれ以下だわ!アリアお母さま以外はどうなってもいいの!?」
ついでに浮遊の魔術で持ち上げて、パッと魔術の展開を止める。そうするとどうなるかって?
先ほど私とユーリが落とされた分だけ浮遊したベンお父さまは、そのまま床にドシャリと落ちた。
本当は私の拳をお見舞いしたいが、か弱いヒロインの腕力より自分の罪(重力)の重さを味わうといいわ。
痛かったんだから!!思い知れ!まだまだァ!歯ァ食いしばれェ!!
「そういうの、ヤンデレっていうのよ!!」
「おい、もう行くぞ」
もういっちょ景気良く!おまけに!と痛めつけようとしていたら、ユーリに手を引かれ出口に引きずられて行く。
「一途な幼馴染はいいけど、ヤンデレはちょっと行き過ぎ!地雷だわ、地雷!」
「なんの話してんだよ、早くしないと騎士団の巡回に間に合わないだろ」
くっ。ユーリは理性的ね!
怒りに燃えていて魔力の巡りの調子が良いのか、まだ落とせるが敵はヤンデレ野郎(ベンお父さまのことだ)だけではない。命拾いしたな。ペッ
「ハッ、ユリウス殿下……まさか騎士団が殿下を助けると思っているんですか」
咳き込み交じりの声が低く落とされ、ピクリとユーリが立ち止まった。
「騎士団の中に王妃派に属する貴族もいます。そこの平民まがいの子ども一人のために、あなたの身を危くさせるなど。嘆かわしい」
「黙れ!!」
行くぞ、と手を引かれ足がもつれないように前に前に出す。
……さっきから殿下って言われてるけど、ユーリってもしかして……!?
────ヒロインのそばにフラグあり、よく言ったものである。
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