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ダダダと駆け上がれば、どうやら上階は酒場のようだった。
何人かがこちらを振り向いた。ポカンとしていたり、焦った顔をしているのが何人かいた。どうやらここはまだ敵地だ。
そのままテーブルの影に走り寄り、厨房を駆け抜け、裏口へと出た。
裏口は私が知っている農村や男爵家の周辺とは違って、民家の密集地のようだった。板で打ち付けられた民家が重なり、うず高く空を遮る民家には洗濯物が所狭しと干されている。
初めての光景に一瞬、ポカンとしていたらユーリに手を引かれ思い出したように駆ける。
そして一拍後に派手な音を出しながら男たちが追ってきた。
慌てて角を曲がり、魔術で風を起こす。
「おい!まて、クソが……!?」
ビュウーーーと建物の間を突風が吹き、空に渡されていた洗濯ものが巻き上がる。衣類や布は通りを舞い上がり、男たちの視界を塞いだ。
「ぶわっ!おい、まて!」
ユーリは慣れたように角を曲がり、壁を超え、人や物の音のする方へ、土煙が濃い方へと走った。
追手たちの声が離れると同時に、遣り込める高揚感の代わりに疲労が強くなる。足がもつれはじめたのが伝わってしまったのか、道端の荷の影に隠れ呼吸を整える。
荒い息を飲み込み、張り付いてしまう喉をはがそうと唾を何度も飲み込む。
そんな時に、空気が変わったような気がして荷の影から日の当たる通りを覗き込んだ。
彩度の低い平民の服とは違う、揃いの仕立ての隊服。
歩くたびに鳴る金物の音。
姿を見れば、平民たちはさわさわと私語を止め、視線を下げた。
騎士団だ。
────私たちの、勝ちだ。
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