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どうやら騎士団の巡回に間に合っただけでは無く、巡回路を当てたらしい。
「……あの二人のところへ、走れ」
巡回する騎士二人の姿はユーリにも見えたらしい。安堵で身体が重くなる。でも、まだだ。
「ユーリも行こう!」
「いけない」
は、と一瞬固まる。そういえば、騎士団の中に因縁の相手がどうとか、あのヤンデレ野郎が言っていた気がする。
「……ユーリは戻るの?男爵家に。でも、いつかまた偶然を装って殺されちゃうかもしれないよ。だから一緒に、」
ユーリは行く気はないのだというように、腰を下した。
「いいんだ、もう。何回も殺されそうになってたし。ここに来たのも、男爵家に俺の死の原因をなすりつけるためというか……だから、死に場所がかわっただけだ」
そう言うユーリの目は、あの最初に見た湖面のようで。
全てを諦めた、あの目だった。
ぐわりと、肩に、耳に、頭に血が上る。痛いくらいに。
「諦めるな!馬鹿!!!」
「なっ、」
隠れているというのに大声で怒鳴ってしまった。
ぴゃ!と身体を跳ねさせたユーリは驚いたようにこちらを見て、へにゃりと眉毛を下げた。
「泣くなよ……」
ぐしぐしとユーリの袖で顔を拭われる。もうちょっと優しく拭ってほしい。
「アンネリーゼは、魔術を使えるんだろう」
もう少し言ってやらねば気が済まない、と口を開こうとしたがユーリの鋭い指摘にピタリと止まってしまう。いかん、黙ってしまえばそうだと認めているようなもんじゃないか!
あわわわと誤魔化そうとするも、ユーリは今までに無く、優しい顔をした。
「隠すな。魔術が使えるとなると男爵家を飛び越して公爵が喜んで迎えるだろう。だから、そこに行けばアンネリーゼは助かる。騎士団にそう言うんだ」
そう言い聞かすユーリの表情を見て。
あぁ、本当に、ユーリは行かないつもりなのだとわかってしまった。
「やだ。ユーリも一緒に行くの」
口が勝手に駄々をこねる。ただの子どものように。何度も何度も、ユーリに続きを言わせまいと、嫌だと駄々をこねる。
嫌だ嫌だと顔を振るたび、ユーリの優しい顔が、悲しそうに歪んでいく。
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