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ヒロイン、逆ハーを目指す
……とまあこのように、初登場はビシッと決まった。はずだ。
勝利宣言の直後、私の到着を待っていたらしい使用人長と御者だった男が遅れて裏庭に現れた。
そこには、びしょ濡れで仁王立ちする少女とそれを支えるずぶ濡れの少年、その足元でひれ伏す使用人見習いという名の悪ガキ、そして周囲で怯えるように立ち尽くす子どもたちの姿があり、何事かと二人で慌てていた。
私は戦闘モードよろしく敵が増えたか!?と疲労で一歩も動けない身体を動かし身構えるが、背後にいた少年に取り押さえられ、使用人長のおじいさんに肌触りの良い布で包まれたところで意識を失くした。
いつの間にか夜になったようで、薄暗い部屋の中。ふかふかのベッド(藁じゃない)で目を覚ました私は短い腕を組んだ。
───これは恐らく、魔力切れだ。
前回で触れた通り、私は魔力量も大陸一番!技術も大陸一番!向かうところ敵なしの天才魔術師★の生まれ変わりである。もちろん他称だ。自分で勝手に言い始めたわけではない。
前世のことはよく覚えていないが、魔術の知識だけはしっかり覚えていたようだ。
だがしかし魔力は前世と比べて限りなく少ない。
前世では水の渦で大軍を退けるなんてことも片手間で出来るほど魔力があったはずなのに、今はあの程度で気絶だなんて情けない。
証明する力は水たまり程度しか無いが、本当に天才魔術師だったのだ。譲れないプライドだけは健在だ。
まあ無いものはしょうがない。魔力問題はどうにかするとして、これからどうするかを早急に決めなければいけない。
今世の”アン”の人生を。
平民だったアン(私のことだ)は通りすがりの魔術師に保有していた魔力を発見され、あれよあれよという間に貴族の家へ引き取られることになったのがここまでの展開だ。
これはまずいことになった。
アンは全く気付いていなかったが、一応大人だった前世を思い出した私は敵の陣地に裸一貫で乗り込んだかのように頭を抱えている。いくらなんでも無防備が過ぎる。
こうして私の意志とは関係なく、故郷の村からこの貴族の家に連れられてきたように、このままだと私の人生が他の誰かの思惑で進んでしまう。
平民としてそこそこ育った少女をわざわざ今更引き取るなんて、良くて政略のための結婚と言う名の人身売買。最悪のパターンは囮の捨て駒だ。考えたくない。痛いのはいやだ。
だはぁ~~~~と溜息が出る。子どもとは思えないほど年季の入ったやつだ。
前世は(他称)大陸一最強の天才魔術師だったので、例え一国を統べる王様だとしても私を思い通りになんてできやしなかった。あの万能時代を思い出してしまった今、誰かの駒になるのなんて悪夢である。
前世では稀代の魔力を後世に残すため、王族との縁談をまとめられそうになったが確固として受け入れなかった。時の王族とだって政略めいたものは嫌だったのだ。
……だってホラ、こういうのは愛がないと。
例えば、私に足りない分野に対し万事有能で、私のことを溺愛してて、私のためなら死ねるほどの忠誠心の高い男がいいなって。前世でもこの条件を全て満たす男には会ったことは無かったし、その条件をあげたら当時の一番弟子に鼻で笑われたが。思い出したら腹が立ってきた。
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