ヒロイン、逃げる

5/5
前へ
/72ページ
次へ
 願いは空しく、騎士たちは去っていく。  もうダメなのだ。何もかも。弱い立場に産まれたら、こうしてなぶられ他人の都合で死んでいくのだ。あんまりじゃないか。  男の肩越しに騎士団の背中を見続ける。そこに、もう一人。見るからに上級の騎士が現れた。その騎士は私たちを一瞥し、眉を寄せた。  あきらかにその上級の騎士が現れた瞬間に、男たちは小さく目くばせをして足早に去ろうとしている。  今しかない。  今残っている魔力でユーリを助けたら、私は気絶する。  これがユーリとの最後だ。  こちらを怪訝そうに見ている騎士を見つめる。  その脇に携えられている剣に、意識を集中させる。    浮遊。 「……ッ、アンネリーゼ!やめろ!」 「な、なんだッ!?」 「団長の剣が!」  ユーリの慌てた声と、状況を把握できない騎士二人の声。  剣の持ち主は一瞬驚いたように目を見開き、こちらを見た。私の目を。  気づいて。  くるりと回転させ、切先をこちらに向け、引き寄せる。 「あッ、おい!」 「なんだありゃあ……飛んでる……!?」  騎士たちの慌てる声で、やっと状況の変化に気付いたのか男たちが浮遊する剣を見た。  加速。 「ヒッ」  ヒュンッと、よく磨かれた剣の切っ先がこちらに向かって飛んで来る。  そのままユーリに刃を向ける男へと向かって行った。  ガツンだの、喧々囂々とした人の声や馬のいななき、あとなんだろう。たぶん、また落とされたかも。優しく扱ってよね。あと口の中に入ってる布をどうにかしてください。臭いのは布の方なので。私じゃないからね。  ────ヒロインは、ここぞって判断を間違えないの。  
/72ページ

最初のコメントを投稿しよう!

42人が本棚に入れています
本棚に追加