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願いは空しく、騎士たちは去っていく。
もうダメなのだ。何もかも。弱い立場に産まれたら、こうしてなぶられ他人の都合で死んでいくのだ。あんまりじゃないか。
男の肩越しに騎士団の背中を見続ける。そこに、もう一人。見るからに上級の騎士が現れた。その騎士は私たちを一瞥し、眉を寄せた。
あきらかにその上級の騎士が現れた瞬間に、男たちは小さく目くばせをして足早に去ろうとしている。
今しかない。
今残っている魔力でユーリを助けたら、私は気絶する。
これがユーリとの最後だ。
こちらを怪訝そうに見ている騎士を見つめる。
その脇に携えられている剣に、意識を集中させる。
浮遊。
「……ッ、アンネリーゼ!やめろ!」
「な、なんだッ!?」
「団長の剣が!」
ユーリの慌てた声と、状況を把握できない騎士二人の声。
剣の持ち主は一瞬驚いたように目を見開き、こちらを見た。私の目を。
気づいて。
くるりと回転させ、切先をこちらに向け、引き寄せる。
「あッ、おい!」
「なんだありゃあ……飛んでる……!?」
騎士たちの慌てる声で、やっと状況の変化に気付いたのか男たちが浮遊する剣を見た。
加速。
「ヒッ」
ヒュンッと、よく磨かれた剣の切っ先がこちらに向かって飛んで来る。
そのままユーリに刃を向ける男へと向かって行った。
ガツンだの、喧々囂々とした人の声や馬のいななき、あとなんだろう。たぶん、また落とされたかも。優しく扱ってよね。あと口の中に入ってる布をどうにかしてください。臭いのは布の方なので。私じゃないからね。
────ヒロインは、ここぞって判断を間違えないの。
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