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素早い身のこなしで椅子の影に隠れたアダムをじーっと見つめ、威嚇する。
なんだかいつもより回復が遅く、これ以上は魔術を使えそうになかったのだが。アダムは私を過大評価しているのか、まだまだ出来るはずと期待して(?)ずれた眼鏡も直さず椅子の影から出てこない。
もしかして、乙女の前で全裸になることは出来ないというアダムの配慮かもしれない。仕事の出来る執事は配慮まで完璧だ。期待に応えられなくて本当に残念だ。
ひとまず、ユーリは無事に保護されたようで安心した。
あのままユーリだけ行方不明だとか、男爵家に連れ戻されただとかいう最悪な状況だけは回避できたようで、本当によかった。
ユーリはすぐ諦めたような顔をするのに、必死に逃げたりもする難しい少年だ。『アンネリーゼなんか大っ嫌いだ』といつから思っていたのかはわからないが、ずっと手を握ってくれていた。
素直じゃないし、頑固だし、プライドも高いし、難しいやつだ。
だけどそれと同じぐらい優しく、身の丈に合わないほど正義感のある少年だった。
魔力切れで倒れることが多い私の手を握って看病してくれたりもした。
不思議とユーリと手を繋いでいると、力が湧いてくるのだ。
いつもより冷たい指先を握りこむ。
今は、その温もりが無いことがとても寂しい。
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