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だが、王道展開に天才ヒロインである私ならではのスパイスを利かせて歴代ヒロインとの差別化を図ろうと思う。
ぐぐぐとせり上がって来ていた涙を拭い、誰の温もりも無い指先を強く握りこんだ。
虐げられ何度踏みつけられても健気に耐える……いや、耐えていたって幸せが訪れるとは限らない。歴代ヒロインたちも、幸せに向かって行動したからこそ結果がついてきたと思わないか。私はそう思う。
だいたい、苦しみを健気に耐えて結局幸せにならなかったヒロインたちはそのまま闇に葬られて物語にもならず人々の記憶からも消されたに違いない。
最後まで立っていた者が物語の勝者となるのだ。
歴史に残る大魔術師だった前世を持つ私はそれを知っている。
正直、寂しいし、やるせないが。ここで泣き伏せているわけにはいかないのだ。
どうして私は奪われるのか。弱いからだ!
どうして私は自分の生きる場所を選べないのか。弱いからだ!
どうして私は弱いのか。諦めるからだ!!
私は諦めたりしない。諦めたらそこで人生終了なのだ。
それを私は知っている。なんせ、前世は大陸一の天才魔術師であり
今世は天才ヒロインなんだから。
「師匠は意外と脳筋ですよね」と呆れたように呟いたのは前世の弟子だったか。
うぉおお!!と盛り上がっていてすっかり忘れていたが、握り拳を振り上げた瞬間にカチリと音がして思い出した。アダムのことを。
────ヒロインは、泣かない・しょげない・くじけないってね。
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