ヒロイン、交渉する

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ヒロイン、交渉する

 カチリという音の後、手首を見れば繊細なデザインの腕輪があった。  先日の貴族街の露店で見かけたブレスレットとは確実に格の違う、値の張りそうな意匠だった。しかも、ぴったりサイズ。指一本も入らない。 「報告書によると、あなたは人身売買に関わるアジトを急襲し壊滅状態にさせ、我が国の誇る王立騎士団団長の武器を奪い、奴隷商人を捕縛。……と、ありましたが、そこまで脅威ではなさそうですね。私でも無力化できました」  アダムはしてやったりと満足そうな顔で椅子に座り直した。  その余裕しゃくしゃくな顔にイラッとしたので、相打ちになろうとも本当にスーツを消してやろうとするがうんともすんともいわない。  私の手には先ほどアダムにつけられた腕輪。  アダムのしたり顔。  魔術が発動しない私の手。  アダムの煽るような三日月目。  何度も視線を行ったり来たりさせ、罠にかかった子狸のように自分の無力を叫んだ。 「外れないわ!」 「外れたら危ないでしょう」  全く、とアダムは余裕を取り戻し脚を組んで眼鏡を磨き始めた。生意気眼鏡め!
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