ヒロイン、交渉する

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「……あなたは何者ですか」  私を観察するようにじっと見るアダムの視線に、どう答えた方が良いものか悩む。  私の実父である公爵はアダムを遣いに出し、私の存在を確認しに来た。  消すだけならいつでも出来た。それをしなかった。それが答えだろう。  私が目覚めたこの部屋はきっと公爵が所有する建物なのだろう。調度品の一つ一つが男爵家とは格が違う。  清潔で豪華なベッドに、身の回りの世話をしてくれていたメイドたち。現時点ではとても丁重に扱われていると感じる。  そして、私は魔術を使いこなせる。これは魔力を保有している貴族の一部、特権階級の中でも強い武器になる。  魔力を保有している人間は貴族の一部であり、その魔力を体外に出す【発現】の段階に行くのも稀だからだ。つまり。  ────きっと公爵は私の存在を手に入れ、新しい駒にしたいはずだ。 「何者だったら、私のお願いを叶えてくださいますか?」  アダムの視線をまっすぐ返す。  従順な駒として使いたいなら、それなりの報酬が無くては。 「……閣下は、あなたを判断しかねている。公爵家にとって、吉星か、はたまた凶星か」 「私は使えますよ。どうせなら頭の良い人に使われたい」  私の答えが意外だったのか、細められていた目が丸くなった。アダムの瞳は綺麗なセピア色だった。そうしていると結構若く見える。  「同感です」  私の敬愛する閣下は人遣いが荒いですからね。退屈させませんよ。と、アダムは作り物ではない自然な笑顔でそう言った。
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