ヒロイン、交渉する

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「私が迎えに行ったのですよ。はるばる、あの辺鄙な農村まで。そうしたらもう迎えは来たと言うじゃないですか」  ピキッとアダムの額に血管が浮いた。 「この私が、アリア・サルージに出し抜かれました」  まさかあの村に通りがかった魔術師と迎えに来た荷馬車は雇い主が違ったのか、と今さら顔が青くなる。  道理で魔術師に発見されて、荷馬車で迎えに来るまでが早かったはずである。父さんなんて、私を肩車しながら「アンはどこだッ!?」と探していたほど慌てていた。 「サルージ男爵を引き継いでいた彼女に確認の手紙を送っても、のらりくらりと躱し子どもの存在を隠していたと思ったら。子どもの存在をチラつかせて魔術師に領地に来いと言ってくる始末」  真冬にですよ、とアダムは怒りに憑りつかれた悪魔かのようなオーラを放っている。  普段、あまり苦労話をしない質なのだろう。グチグチネチネチと不満が止まらない。滝のように出てくる出てくる。アダムの気苦労が垣間見える。  私はハラハラしたようにアダムを見ていたが、内心では獲物の隙を見つけた野良猫のようにニタリと笑った。アダムの攻略法、見破ったり。 「……それは随分と大変だったんですね。アダムさんは閣下から頼りにされているんですね」  気遣うようにほほ笑みながら、アダムを見上げる。まるで全てを包み込む聖母のように。
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