ヒロイン、裁く

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ヒロイン、裁く

 半地下の石畳に女物の靴の音が混じって響く。音が近づくにつれ、その足音と男の鼓動は速くなった。  その音に耳を澄ませていた男は、食い入るように扉を見つめていた。  その扉から一人、女性だけが滑り込んだ。  外套を取ると、陽の光が入らない室内でもわかるほど赤く色づいた髪がこぼれた。 「ベン」 「アリア!アリア!ごめんよ。悪かった、話を聞いてくれ……!」  男は妻の足元へ膝をつくと、懇願するように手を床についた。  それを妻は見下ろし、ゆっくりと口を開いた。   「なぜこんなことをしたの」 「ごめんよ……」  男は妻の”汚点”が許せなかった。  今は妻となっているアリア・サルージには、汚点となる過去があった。    二人は所謂幼馴染という間柄であり、地方貴族で歳も近い二人はゆくゆく結婚するのだろうと周囲もお互いも、そう思っていた。  もっとも、幼馴染の父親である前サルージ男爵は違ったようだが。  だが、あの日。  王都にある公爵邸へ花嫁修業と称し行儀見習いとして奉公に行っていたアリア・サルージは憔悴しきって帰郷した。  男は突然の帰郷に驚いたものの、花束を持って幼馴染に会いに勝手知ってる男爵家へ向かった。  しかし、もうそこには男の愛していた幼馴染の少女はいなかった。  お転婆で、堂々と、勝気な少女だったはずの幼馴染は”女”になっていたからだ。  退廃的な、諦めたような瞳で男を見て、作り笑顔で甘える幼馴染が他人のように感じた。
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