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ヒロイン、再会する
「会いたかったわっ……私のアンネリーゼ」
「あぁ、この子がアンネリーゼなのか……!」
「……はじめまして」
私を抱きしめるのは、私より赤みの強い髪に濃い緑の瞳をした綺麗な女性。
抱きしめられているのは、この物語のヒロインである私。
その様子を見ている男性や使用人たちは目を覆って泣き始めていた。
ちなみに私の名前はアンだが、たった今からアンネリーゼという立派な名前になったということなんだろうか。説明は足りないが、エレガント度が増したので異論はない。
女性は綺麗な顔をハッとさせ、私をじっくりと見つめた。
な、なんだ、何を見てるんだ? と、負けじと私もじっと見返した。
すると女性の瞳からポロリと雫が落ちた。
ギョッとしたのも束の間。女性は泣き笑いかのような複雑な表情で「忘れてしまったの……?」と声を震わせた。
忘れたも何も初対面だが???と、顎に手を当てハテナとなっている私なんてそっちのけで、周囲にいる大人たちは痛ましげに顔を逸らしたり貰い泣きまでしていた。
女性の綺麗に整えられた手が私の枯葉のような手をそっと握る。
その手を見比べて私たちの生きていた場所が明確に違うことがありありとわかった。やはり泣けない。誰なんだ。いや、私より赤みの強い髪の色で察しはついているが何を今更。
私の冷めた目なんて見ちゃいないのか、何度洗ってもまだ到底白くはならない私の手に女性は頬を寄せた。
「───私が、あなたの、お母さまよ」
ポロリ、ポロリと朝露のように綺麗な雫が次々と溢れ私の手を濡らしていく。
「お母、さま……」
「えぇ……っ!そうよ!あぁ、まだわたくしをお母さまと呼んでくれるのね」
いいえ。これは相槌で……と言う隙もなく女性が感極まって私を強く抱きこんだ。
その温もりにちょっとだけ里心が疼いた。
まがりなりにも、私は村で家族と一緒に住んでいたのだ。
どうやら本当の家族じゃなかったらしいが、とても優しく温かい家だった。
だから、知らない女性といえども。
こうして会いたかったと抱きしめてもらって、ほんのちょっとだけ……こう……
そっと抱きしめ返そうと腕を持ち上げた時だった。
女性の身体がバッと離れる。
「まぁ!一緒にお散歩へ?そうね、ここだと大人がたくさんいて緊張するわよね。お母さまと少しお散歩しましょう」
「あぁ、それがいい」
私は何も言っちゃいないが、どうやら外で話したいことがあるらしい。抱きしめ返そうとしていた手をだらりと下げた。
”お父さま”と”お母さま”は幸せそうに私の顔を覗き込んだ。
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