ヒロイン、裁く

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 まだ本調子ではないというのに、アリアお母さまがヤンデレ野郎……ゲフンゲフン。ベンお父さまに面会するという知らせを受けて急いで来たのだ。太陽が沈むより速く走った。心情の例え話である。もちろん走ったのはアダムだ。私は肉体派ではない。  間に合ったようでよかった。ヒーローは遅れてやってくると聞くけれど、私はヒロインなので間に合うらしい。もちろんアダムの脚力あっての結果でもある。  何に間に合ったかというと、二人の間に決定的なヒビが入ってしまう前にである。ここで二人に仲たがいされてしまうと困るのだ。こちらにも事情があるのでね! 「アンネリーゼッ!なぜここにいるの」  アリアお母さまは、険しい顔をこちらに見せた。  ベンお父さまは私の登場に心底驚いたように目を見張った。アリアお母さまの足にキスでもするのかという姿勢で伏せているのは気になるが、夫婦間にはそういう変化球も必要なのだろう。たぶん。お互いが良いなら他人が口を出すことではない。ウン……。  そう、我々は他人になるのだ。  そのために私は二人の前に滑り込むようにやってきた。  ひたりと、あの奴隷商人のアジトとやらぶりにベンお父さまの昏い瞳を見据える。 「ベンお父さま、この様子ではまだアリアお母さまにお話していないのですか?隠さなくても良いのですよ。計画は大成功です」  ピクリとベンお父さまの眉が動く。  アリアお母さまは私とベンお父さまを交互に見て、なぜか私だけ睨んできた。そんなに仲間外れが嫌だったのだろうか。理不尽だ。
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