ヒロイン、裁く

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 気を取り直して。  ごほん、と息を整え両の手をゆるく握り心臓の前で構える。  腰を落とし、重心を低くした。  念のため言っておくが、これは古武術ではない。ヒロインの構えである。  スゥーーーー……   「アリアお母さま、ベンお父さまは悪くありません。私が公爵家に行きたくて、騒ぎを起こしたのです……っ」  イメージは【私のために争わないでっ】と瞳に涙を貼り付けておくヒロインだ。広い意味で適している。  演技に深みが増している自信があったというのに、アリアお母さまの目は厳しい。 「今はあなたの遊びに付き合っている暇は無いの。後で迎えに行くから待っていなさい」 「嫌です」 「返事は”はい”しか許していないわ、アンネリーゼ」  アリアお母さまが苛立ったようにこちらに手を伸ばした。またあの手で私を掴み上げるつもりなのだろう。二度同じ手に引っかかる私ではないのですよ。  ”何もついていない手”を一振りすると、部屋の中の僅かな光源になっていた燭台の火がボワリと大きく沸き踊った。  何が起きたのかアリアお母さまが理解する前に、ベンお父さまがアリアお母さまをかばうように抱きしめた。  燭台の火はシュルルと先ほどまでと変わらない大きさに戻るが、二人の瞳は先ほどまでとは違う色があった。  その二人の瞳の中にある”恐怖”をじっと見返す。 「────嫌です。私、魔力があるんですよ?あんな田舎で終わるなんてまっぴらです」
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