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「────嫌です。私、魔力があるんですよ?あんな田舎で終わるなんてまっぴらです」
ジジ、と火が蝋をあぶる音だけが聞こえた。
長い長い時間に感じた無音の空間に、ポツリと一言だけ「なんて馬鹿なことを」と呟く声が落ちた。
それを溜息で返す。
「……アリアお母さまも、田舎は嫌だと夢を見て公爵家に行ったのではないのですか?」
アリアお母さまを抱きしめ続けるベンお父さまの手が、がわずかに反応する。
だいたいの事情は男爵家の使用人から情報を収集して把握しているが、あえて知らない風を装う。アリアお母さまお墨付きの”小賢しい”部分である。
「公爵家のあった王都生活は楽しかったですか?物も人も多い王都とはどのようなところなのでしょうか。流行りのドレスも、歳の近いお友だちも多いと聞きました。それに王子様がいるそうです。アリアお母さまもお会いになったのでしょう?」
王子様に、と言外に匂わせ無邪気にほほ笑む。
煽ればどんどんアリアお母さまの柳眉が寄っていく。ベンお父さまの瞳も昏さが増してきた。アリアお母さまだけではなく、ベンお父さまの虎の尾も踏んでいたらしい。
「今は私のことは……」
「もういい。いいんだ、アリア」
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