40人が本棚に入れています
本棚に追加
ベンお父さまの落ち着いた声が掠れて響く。
緩んでいた腕が、一度だけアリアお母さまを抱きしめる。
そして、その腕はずるりと落とされた。
「ぼくはこの子を消そうとした。君の中から消したかった」
アリアお母さまがストンと表情を消して、見上げた。
「私は、そんなこと望んでないわ」
望んでない、という言葉の意味をどうとらえたのか。ベンお父さまは苦しそうに視線を下げた。
「そうだ、アリアはこの子と一緒に公爵家に行くつもりだったんだものな。結果、ぼくは失敗した。でもこれでアリアを縛る枷は無くなった。これでよかったんだ。馬鹿なことをして迷惑をかけてごめん」
吐き出す泥をかけてしまわないように、一歩一歩と下がるベンお父さまに「違うわ」という細い声が追いかける。
「もういいんだ!もう無理するな。ぼくはアリアの邪魔をしたくない。またアリアは飛び立つんだ。幸せな時間をありがとう」
世界を拒絶するように、もういいと繰り返しつぶやく声が苦しそうに床を這う。
アリアお母さまは無表情でそれを見ていた。
最初のコメントを投稿しよう!