ヒロイン、裁く

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 ベンお父さまの落ち着いた声が掠れて響く。  緩んでいた腕が、一度だけアリアお母さまを抱きしめる。  そして、その腕はずるりと落とされた。 「ぼくはこの子を消そうとした。君の中から消したかった」  アリアお母さまがストンと表情を消して、見上げた。 「私は、そんなこと望んでないわ」  望んでない、という言葉の意味をどうとらえたのか。ベンお父さまは苦しそうに視線を下げた。 「そうだ、アリアはこの子と一緒に公爵家に行くつもりだったんだものな。結果、ぼくは失敗した。でもこれでアリアを縛る枷は無くなった。これでよかったんだ。馬鹿なことをして迷惑をかけてごめん」  吐き出す泥をかけてしまわないように、一歩一歩と下がるベンお父さまに「違うわ」という細い声が追いかける。 「もういいんだ!もう無理するな。ぼくはアリアの邪魔をしたくない。またアリアは飛び立つんだ。幸せな時間をありがとう」  世界を拒絶するように、もういいと繰り返しつぶやく声が苦しそうに床を這う。  アリアお母さまは無表情でそれを見ていた。
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