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最後に、あのままユーリにもらっていればよかった。
ん、って差し出されたら、もうって言って、髪にさしてもらえばよかった。
柄にも無く、後悔が浮かんだ思考をアダムが切った。
「あなたはユリウス殿下と縁づきたい?」
眼鏡の奥のアダムの瞳に、私を探る色が見えた。
「まさか。”ユーリ”は私と会いたくもないと思うわ。だから、私の周りじゃなくて、”王妃派”でもない、えーっと、ユーリが安心して暮らせる、優しいお父さんとお母さんになれる方のところへ移してほしいの。男爵家、ダメ、絶対」
ユーリの心のお姉さんとして、譲れない条件をずらずらと並べたが。アダムは眉間に皺を寄せて、唸り声を上げている。そんなに難しい条件だろうか。
「何か誤解がありますね……あぁ面倒だ……」
「難しいの?いくら公爵家といえども、やっぱり難しいこともあるわよね……」
ソウジャナイ、ソウジャナイ、と壊れた機械のように小さい声で呟いていたと思ったが、「まあ物事にはタイミングがありますからね」と気持ちを切り替えたのかアダムは胡散臭い笑顔を持ち上げた。
「あなたの弱みもわかりました。あなたが閣下や、公爵家にとって凶星だとわかった時には、男爵家の皆さまとあなたの育ての親御様がお住いの村、あと”ユーリ”ぼっちゃんですね。消えて頂きましょう」
「最低!」
ハッと口をおさえる。
咄嗟に口から飛び出てしまったが、もうこういう部分は私の愛嬌だと思ってほしい。この口が、勝手に!
アダムの胡散臭い笑顔に凄みが増したが、ここは見逃してくれるらしい。
「くれぐれも、私を”最低”にしないでくださいね」
と、念を押すだけに留めた。
────ヒロインは災難にも好かれやすいのだ。
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2024.03 第一章 男爵家編 完
第二章 公爵家編は書き溜めたら更新します。
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