35人が本棚に入れています
本棚に追加
/72ページ
ヒロイン、震える
この数千年に一人の奇跡の美少女と巷で噂(ものの例えである)の、9歳女児を脅す彼女。男爵家の女当主であるアリア・サルージが実の母らしい。どんでんどんでん。これは衝撃的な事実を目立たせるための効果音だ。
妻が幼い女児を笑顔で脅しているというのに、”お父さま”は私たちを遠くからほほえましいものでも見ているかのように眩しそうに見つめて微笑んでいる。
チラッと助けを求めてみたが、うんうんと感じ入っていた。のんきなものである。
とりあえず、片方は優しそうな人でよかった。まだ救いがある。
アリアお母さまは人妻・子持ちとは思えないほど若々しく、少女のような風貌だった。10人いれば10人が「愛らしい」と頬を緩ませる魅力の持ち主だった。
私より濃い赤い髪や濃い緑の瞳はどことなく私と似ていると言われたら、どちらかというと似ているような気もする。現在進行形で脅されているので認めたくないが。
しかし、ベンお父さまは黒髪黒目でちっとも私と共通点がない。それに私はあそこまでのんきではない。
ぐぬぬ。女児の脅しに村一つかけるとは、貴族の天秤は狂っている。平民の命をなんだと思っているのか。この小さな肩で背負うには重すぎるのではないだろうか。
思わず、身体が勝手にぶるりと震えた。
村に残してきた、偽りだったとしても温かい思い出をくれた”家族”を人質にとれられた。
なぜだか実の母は私を疎んでいる。
それらに私の身体は震えていた。
───もちろん。高揚感で、である。
最初のコメントを投稿しよう!