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「こういうのは人の興味を引くために結構大げさに書いてある。書かれていることを全て真実だと思うな、面白い内容は売り上げを上げるためだ」
「あう!」
「良い返事だ」
読むペースに合わせて新聞をペラペラめくっていると、突然すうすうと寝息を立て始めた。
「こういうところは普通に赤ん坊っぽいんだよな」
頭を優しく撫でながら手足が冷えないように毛布をかけてやる。買い物から帰ってきたエテルがその様子を見て小さく微笑んだ。
ほんの小さな幸せ。これが一体いつまで続くのか。できるだけ長く続いてほしいと思いながら、ロジクスはエテルから買ってきてもらったパンを受け取った。
「お父様、いつも同じローブ着てる。もうボロボロだよ、新しいの買わないの?」
七歳になった娘、シャロンが不思議そうにそんなことを言ってくる。グレイスの誕生日が近いので、父への誕生日プレゼントを考えているようだ。もしかしたらローブをプレゼントしようと考えているのかもしれない。
「これはお父さんの宝物なんだ。お父さんに生きる道を教えてくれた人がくれたんだよ」
「そっかあ」
少しだけしょんぼりした娘にグレイスも申し訳ない気持ちになる。するとメイドが近寄ってきた。
「旦那様、買い換えることが悪いことではないですよ。大切なものだからこそ、そろそろしまっておいたらどうですか。これ以上着るとほつれて縫わなきゃいけなくなります」
「そうだな。最近裾がボロボロになってきたしな」
「あ、じゃあお買い物行こう! あ、いや、違うの。えっと、新しいローブは買わなくていいからね!」
何を考えているのかすぐにわかる。温かい気持ちになりながらわかったよと娘の頭を撫でた。
一度しか会わなかった彼。名前も知らないし別に友人というわけでもないのだが。なんだかこの先の事すべてを見据えていた気がして、再会できなかったのが悔やまれる。彼ともう少しいろいろな話をして、今働いている学校に来てもらいたかったなと思う。
子供が産まれたばかりだと言っていた、という事はシャロンと同じ年だ。魔法使いの子供は魔法使いになる。この町に住んでいるのなら、もしかしたら同級生として入学してくれるかもしれない。
向こうは自分の名前を知っていたし、本当に理事長になったのかと会いに来てくれるかもしれない。そんな思いが理事長を続ける理由の一つだ。
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