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子供と言っていただけなので男なのか女なのかはわからないが。かなり整った顔立ちだったので息子ならそっくりだろうし、娘ならかなり美人のはずだ。きっと顔を見ればわかる。
そんなことを考えて約十年後。思い人と口論になったと泣いているシャロンの姿を見て、ブチ切れて学校に乗り込んでしまった。魔法協会とのいざこざ、教師たちからの反発が多く睡眠不足になってイライラしていたというのもある。
普段の自分だったら絶対にやらないのだが、愛する妻の忘れ形見であり、宝物のような存在の娘。色恋沙汰で泣くなど親が最も見たくない姿だ、一気に頭に血がのぼった。
「俺の娘を泣かせたクソ野郎はどこのどいつだああ!」
「あ、僕です」
ポカンとした様子で、それでも素直に右手をあげて名乗り出る青年。ぶち殺す!! と思ってそちらを振り返って、目を見開いた。
――似ている。
十八年前に会ったきり、しかも一度だけ。今ではおぼろげになってしまった記憶が鮮やかに蘇る。
シャロンから話は聞いている、彼には親がいないと。あの時は内紛の他にも魔法協会の動きが激しかった。自分に暗殺者を送り込んできたのはいつも魔法協会だ。もしかしたら彼もとんでもなく優秀で、狙われていたのかもしれない。残念、無念でならないが。
――ああ、こんな形の再会もあるんだな。
なんと声をかけようかと思っていたが。
「やめてってばお父様、みっともない!」
そんな娘の声がなんだか男をかばっているように思えて再び頭にギューン! と血が上った。
「こぉの、ヘタレうじうじ男があ!」
「初対面でひどい言われよう」
あの時もそんな会話をした。間違いなくこの子は彼の息子だ。
結局真相はなんとなく話せなかった。彼の名前を知ることができたのが唯一の収穫だ。一度だけ適当に理由をつけて、それとなくローブを渡そうとしたのだが。
「他人が着込んだローブなんて受け取りたくないんですけど。ボロボロなのはまだいいですけど、うっすら血の跡があるじゃないですかこれ。いりません」
心底嫌そうな顔でローブを突き返されたので何十回目かのタイマン勝負が始まったのだった。
あれから長い長い年月が過ぎて、内紛は一応おさまりを見せた。争いはもうこりごりだと郊外に引越し、静かに老後を送っている。シャロンが理事長の後任となり、今では地域の学校を取りまとめる役員にまでなっている。
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