ぼくのアドベントカレンダー

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 アドベントカレンダーのセットがあるんだ、まずはその紹介をするね。  段ボールの箱。拡げたノートより大きいけど、深さは4センチ。そして箱は小さな部屋に分かれている。25の部屋に。  そこにはもう、お菓子が入っている。僕の大好きなキャンディーや、ちょっと苦いチョコ、甘いクリーム入りのマジパン、キャラメル。  でもすぐに食べない。一日ひとつ、窓を開けるたびに入っていたのを食べていいんだって。  ママはこれをどこかで見つけて、僕のために買ってくれたんだ。  僕はもちろん中身も好きなんだけど、肝心なのは……ふたなんだ。  ふたにする紙は、こんな感じ。  段ボールにぴたりとふたにかぶせ、四方をちゃんとのりづけできるくらい。このふたの、25個の仕切りごとに絵を描くんだ。  ふたの部分には部屋に合わせて、ミシン線の切れ込みが入っている。片開きになったり、両開きになったり、そう、そこが窓になるんだからね。  僕はマジックを取り上げた。  まず一つ目の窓『1』とある上に、おひさま。  明日、天気予報では朝から雪らしいから。せめて明るくなれるように。  2には我が家の猫、サバ、それから名付け親のミワ。  サバって、カイが拾ってきた時、たまたま家に泊まってくれたママのお友だち、日本人のミワがつけてくれた名前なんだよ。  呼ぶたびにフランス語で「お元気?」って聞くみたいで、誰もが喜んで名前を呼ぶ。だから家族はそれから少しだけ仲よくなった、気がする。    3はママ、看護師さん。4はパパ、路線バスの運転手、僕の憧れの仕事。カイは、僕には絶対無理だ、って言ってるけどね。  5からきょうだい。まずヤンナ姉さん、看護師になる勉強中。  6はアディ、工場でボイラーの仕事をしている。年はアディが一番上だけど、たまたま6が誕生日だから、ヤンナと入れ替えたんだ。  7と8とは双子のフィオナとテレサ、ふたりとも、もっと上の学校に行きたいってギムナジウムに行っている。  9に描くのは3つ上のカイ。ギムナジウムではなくて別の学校に行っているけど、ほんと、イヤイヤ行っているし、よくサボっている。  10には僕が入るよ。今は3年で僕は真面目に学校に行く。  11に描くのが弟のラウル、4歳だから、保育園に行っている。  家族はいつもケンカばっかりだから、狭い所に並べるとケンカしているように見える? だいじょうぶ。窓にもともとついている数字は、ちゃんとバラバラになっていて、並んでいないんだ。だから僕たちはあんがいいい感じで離れあっている。しかも、寂しがりのラウルはさりげなくママの隣だよ。  12はボンに住んでいるおばあちゃん、13は順番だと隣町に住んでいるアンおばさんだけど、不吉だって嫌がるだろうから、ここはニコニコしているお星様の絵。そして14にアン。15にアンのボーイフレンド、テオ。しまった、アンはまだテオと付き合っているのか、分からないや。でも僕は彼が好きだから、まだ一緒にいてほしいな。テオは、僕のことも無視したり、逆に心配しすぎたり、ということがない。本当に自然に、普通に、接してくれる。僕がパニックになっていても、知らん顔して少しだけ離れたところで、さりげなく見守ってくれるんだ。  16は誰だろう? 大好きな人は多い。角にあるパン屋のリーゼさん。いつもゆっくりと、やさしく声をかけてくれる。あと、学校用務員のヘンケルさん。僕をみて笑う子どもたちを箒で追っ払う。僕に笑いかけることはないけど、渋い顔のままで、ポケットから焼いた栗とかキャンディーを出して、手に押し込んでくれるんだ。家族でない人たちも、大切な人は入れてもいいよね?  パン屋さんが16、リーゼさんご自慢のブレッチェンが17。ヘンケルさんが18、ヘンケルさんのいつも持ってる箒が19、飴が20。  大変、うちの窓に巣をかけていた鳩たちを忘れていた。いっときだけなんだけど、それでも家族だよね。僕はいつも見守っていた。可愛い子鳩も4羽。夫婦の鳩が21、子鳩はまとめてひとつの巣で22。  天使と言えば、天使みたいに素敵な笑顔のファラ。近所の公園で会うたびに、不思議な帽子みたいな布をいつもかぶっていたけど、黒い瞳がいつもやさしく笑っていた。僕に短いことばで話しかけて、不思議な歌をたくさん、歌ってくれた。彼女はお兄さんの話をよくしてくれた。ファラのお兄さんは学校の先生になるために大学で勉強していたんだけど、ある日突然、近くの駅の構内で、たくさんの人たちを巻き込んで死んでしまった。  ジバクテロということばを、大人たちもきょうだいたちも、いまわしいことばのように発するけど、そしてそのために、ファラはいつの間にかどこか遠くの街に去ってしまったけど(隣家のドットさんは、アイツラは元いた場所に帰るがいいさ、と笑っていたけど)、彼女が僕の大切な人なのには、かわりがない。  彼女のために23と、24を。24は、僕が結局見たことのない、彼女のお兄さんのためにひとつ空けておこう。お月さまの絵で。  最後の25は、僕の一番好きなもの。  ある日ママが言ったんだ。僕をシセツに入れたほうがいい、って言った人達に向かって。  この子は、私たちと同じように感じて、同じように他を労わり愛し、同じように傷つき、同じように語りあいたい、と思っているの。  ただ、この子が開けることができる窓は、みんなに通じにくい場所にあるのよきっと……屋根に近いのか、地下なのか。  それでも、必ずこの子は世界につながっているはずよ。  だから25はそのまま、窓の絵だよ。  僕がつながる、すべての世界への窓。  メリークリスマス、みんなに愛を。
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