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「本当に、カンクロの、隠し金、なのだ…?」
「んなわけあるかぃ」
ふたりは、灯台の狭い階段を登っていた。
ハタタカが初めて灯台に来たと言うと、サザナミは上の踊り場への扉を開けてくれたのだ(鍵を使ってないように見えたが、ゲンゴロが黙ってたのでハタタカも黙ってた)。勧めた本人は暖かい食卓に残り、茶を啜っている。
「違う、のだ?」
長い螺旋階段に、ハタタカは疲れてきた。でも下男は、主人のペースに合わせて登りながら、普通に話している。
「ただでさえ大陸中回って年がら年中スカンピンだった奴が、まとまった金なんて残せるかぃ。くだらねぇガセだ」
「ご…ご両親の、残した、お金…では、ないのだ?」
「ねぇよ」
踊り場に着いた。ドアを開けると冷たい風が勇者をあおる。
「…そんな金ありゃ、殺し屋なんかやってねぇ」
古の勇者の呟きは、風に吹かれて遠くに消えた。
「わ…わあ〜…」
「声震えてんぞ、ビビってんのかよ」
「び、ビビってなんか、いないのだ!」
とは言ったが、勇者ハタタカは心底ビビっていた。高い。風も強くて飛ばされそうだし寒い。耳がちぎれないように、マントのフードをしっかりとかぶる。
でも、景色はとても美しかった。
賑わいを取り戻しつつある港、それに伴い人口が増えてきた町、青く冷たい色の海。
これが、勇者カンクロが生まれた土地。
チラリ、と横にいる本人を見る。百年ぶりに封印から解かれた勇者は柵に寄りかかり、つまらなそうに景色を見ていた。
『久しぶりの故郷は……つまらないのだ?』
十歳の少女に、その心境ははかりかねた。
「おっ」
ゲンゴロの視線を追うと、灯台への階段をヌルヌル登ってくる巨大なヤスデ。
「もう二戦目か。勇者様、杖は?」
「あっ、宿舎に置いてきたのだ…」
「取りに戻る暇ぁねぇな。俺のこたぁ触んねえでくれよ、よっ」
「えっ?」
ゲンゴロはハタタカの胴体を抱えて柵に駆け上り、跳んだ。
「えっ待っひゃああああああ‼︎」
勇者ふたりは、勢いつけてヤスデの頭に着地した。
倒された魔物の魂が、灯台に向かって飛んでいく。
「魔物使いも来てるみてえだな」
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