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「次から次と、しつけぇな!」
「えいっ!」
若き勇者ハタタカとその下男ゲンゴロは、海崖からゾワゾワ登ってくるデカいフナムシを、片っ端から叩きのめしていた。
「勇者様、あんな不届な魔物ども雷落としてしまえ!」
「それやっとオメェも感電すっし、灯台の電気と水も止まるってよ。いいかぃ?」
「この寒空の下、老人になんと酷なことを! わしはただ、静かに余生を送りたいだけなのに」
「なら中に入ってあったまってろジジイ!」
ゲンゴロは怒りを込めてフナムシを蹴り飛ばし、ハタタカが杖で直に雷を打ち込んで、灰にする。
二人はいつもより少し、攻撃強めで戦っていた。
ハタタカは依頼の場所を聞き、思わず下男を見た。
「なんで俺の方見んだよ。依頼だろ、行こうぜ」
目的地に着いても、ゲンゴロは少しイラついた態度は取っていたが…それは組織の機密を警察に教える代わりに灯台に隠されたと噂の財宝を総取りしたい、という依頼人の元泥棒のせいかもしれない…いつも通りではあった。
『なにも思わないのだ……?』
ハタタカは建物を見上げた。長い間雨風に晒されて、彼らが来る前に魔物に襲われた白い灯塔は、だいぶ汚れ傷ついている。
旧カルカナデ地区東部・エールエーデ灯台。
百年前の勇者カンクロ…いま彼女の横で、十手でフナムシをぶん殴ってる男…が、生まれた所。
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