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「史狼、おかえり!」  午後十一時、叶都は今日もバイト帰りに自宅ではなく、史狼の家に行く。 「……ただいま」  先日から変わったのは、門の前で待つのではなく家の中で史狼を待つことを許されたことだ。 「今日は飯垣さんと夕飯作ったんだ。ほうれん草の胡麻和えとアジフライ。この時間だと重いかなと思ったけど、おれが食べたかったから」  ダイニングテーブルに皿を並べると、それを覗いた史狼が微笑む。 「美味そうだ」  その一言に叶都が飯垣の顔を見やると、その顔も笑っていた。このところ、史狼の食欲は戻ってきていて、叶都と一緒に出された分は食べられるようになっていた。それが自分のおかげだとしたら嬉しい。 「じゃあ、そろそろ上がらせてもらいます。あとは、『姐さん』に任せるんで」  飯垣がにやりと笑ってこちらを見る。飯垣がこんなふうに叶都を呼ぶおかげで、すっかり定着してしまって、昨日は礼史にまで『姐さんって呼ばれてるらしいな』と笑われてしまった。それでも悪い気はしないのは、それが自分は史狼のものだと周りが認めているということだと分かるからだ。 「姐さん、か」  小さく笑いながらダイニングチェアに座る史狼に、叶都が少し不機嫌な顔を向ける。 「姐さんって呼ばれると、おれが嫁みたい」  ホントは逆なのに、と叶都はため息と共に史狼の向かい側に落ち着く。 「でも、今の叶都は嫁っぽいけどな。旦那の帰りを待って飯の用意して」  史狼が目の前の箸を取り上げ笑う。叶都が不機嫌な顔をするので面白がってそう言ったのだろう。けれど叶都はその言葉を聞いてにやにやと史狼を見つめた。 「それって、おれと結婚してくれるってこと?」 「な、そ、そういう意味じゃ……」  顔を赤くして慌てる史狼に叶都が優しく微笑む。 「じゃあ、初めに恋人になろ?」  叶都が史狼に手を伸ばす。まだ顔を赤くしたままの史狼がこちらをちらりと見てから、おずおずと自分の手を出した。 「……よろしく、頼む」 「うん。大好きだよ、史狼」  史狼の手を取り、叶都が立ち上がる。そのまま史狼にキスをすると、史狼が、俺もだ、と小さく答え、笑顔でもう一度キスをした。
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