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父
自分がひとみの父の代役である、という事は最初に会議室で話した時から感じていた。無論、実際の年齢差はそれほどではないにせよ、彼女の求めている父性への歪んだ希求を、自分が埋め合わせているのだと。ひとみが瀧本の事をそう呼んだ時は、瀧本は決まってつらい責めを与えた。そうすると、ひとみの絶頂もまた、深くなるようだった。
「今度は、麻縄にしようか。観音縛りを試してみようかと思う」
麻縄は、女性の肌には最初は厳しいだろう。痕も深く残るだろうし、傷が出来るかもしれない。縄が汗や涙で身体に馴染んでいくと、綿ロープとは較べものにならない質感になる。
ひとみはベッドの中で瀧本を見つめたまま、何も言わなかった。その眼に、その底知れぬ欲を持つ肢体に、瀧本は絡めとられ、縛られていくのを感じていた。
事が終わって、ホテルの正面玄関でひとみをタクシーに乗せた時、ふと、瀧本は言い知れない喪失感を抱いた。そんな事は初めてだった。
「おやすみなさい」
ひとみが言い、スライドドアがゆっくりと閉まっていった。
このままもう、会えないのではないか。
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