予感

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 瀧本の嗜好を理解してくれた恋人もかつてはいた。だが嗜好と恋愛は別だった。愛情や恋慕といった感情とは別の所で、瀧本は女を縛りたかった。縛りたいというよりも、縛り上げた後の女のフォルムを見たいのだった。仕種を見たいのだった。唇から漏れ出る、その瞬間にしか出しえない吐息の熱を、感じたいのだった。  広々とした、瀧本が暮らす部屋よりも大きいような浴室で、ひとみの汗をかいた身体を丁寧に洗ってやった。無論、これも行為の一部だった。身体を無防備に晒してその縄の痕跡を確認する。赤く腫れた箇所を摩りながら、ひとみに語りかける。 「痛かったかい」  ひとみは湯のせいだけではない上気した表情で首を横に振る。 「いえ、全然。嬉しいんです」  その風情が瀧本の中のいわく言い難い欲情を刺激する。飛沫の中で荒々しく唇を重ねると、すぐにひとみの方から舌を絡ませてきた。ボディソープでぬめる身体をまさぐり、瀧本はそれに応えた。  性に関して貪欲な女である事は、肌を合わせた時にすぐに判った。誘ったようで、誘われた。その感覚があった。
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