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D会議室
メールにはその一文と、時間が書かれていた。場所は社内のD会議室で、見た目には仕事の連絡のようにしか見えない。D会議室は普段は施錠されている。入れるのは権限を持った瀧本ほか数名しかいなかった。
呼ばれている。
そう思えてならなかった。
その日は何も予定が入っていないD会議室を時間までに解錠して、瀧本は中で待った。
控えめなノックの音がして、ひとみが入ってきた。小さく会釈する。
「座って」
何か叱責する為に彼女を呼んだかのようになっているのに、少し可笑しさを感じて、瀧本はひとつ息をついた。
「すまない。仕事の話でもないのに」
瀧本の言葉に、ひとみは口の端だけで笑みを作った。
「いえ。わざわざお呼びだてしてしまって」
瀧本の向かいに腰を下ろしながら、ひとみは言った。こういう言葉遣いも、最近の若い女子社員にないものだった。伏し目がちな所も、不躾な感じが無い。
「単刀直入に訊くけど、君のその手首の痕は、何かで……例えば縄のようなもので、縛られた痕なんじゃないか?」
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