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ひとみは暫く、瀧本を探るような眼で見つめていたが、やがて視線を落として、ブラウスの袖のボタンを外し、そっと捲り上げた。
手首の関節の辺りにくっきりと、今は蒼ざめたような色合いになった痕が見えた。かなり強く縛らないと、こうはならない筈だった。
「……誰かに暴行を受けている?」
瀧本は念の為に言った。妙な確信めいたものが、この時もあった。
ひとみは緩慢に首を横に振り、否定した。「これは……自分で縛ったんです」
「自分で?」
「はい……でも、巧くはできなくて」
瀧本は身体が芯から震えるような、電気を帯びたような感覚に囚われた。
「君は……縛られたいのか?」
ひとみは驚くほどあっさりと、頷いた。
「ただ、誰にでも、という訳ではありません。課長だから、こんな事を打ち明けたんです」
その眼はやはり、ぬめるように潤んでいた。
ひとみは所謂被虐願望の持ち主という訳ではなかった。幼い頃に、父が持っていた緊縛に関する雑誌を偶然手に取り、女性が縄に縛られている様に心を奪われた。それがどこか、後ろめたいものであることを、幼いひとみは充分に理解していた。
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