19 そして魔法は解ける

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19 そして魔法は解ける

 抱きしめて、何度もキスをした。それだけでも幸せが溢れて止められないのに、その先まで許されてるなんて、これは現実なのだろうか。夢ではないのか。  でも、ご令嬢の肌に触れ、この手に感じる熱が、夢ではない事を僕に教えてくれる。  言葉を交わす事もなく、互いの吐息だけが耳に響く。時折混じる、小さく美しい嬌声に、僕の理性が少しずつ溶けて、流れていく。  触れるだけだったキスも、少しずつ深くなる。僕は、唇のわずかな隙間から、その更に奥へ触れる。瞬間、震えるご令嬢。その反応に、僕は慌てて彼女の顔を覗き込む。でも、その表情は、どこか不満げだった。 「……どうして、止めるの?」 「震えていたから」 「少し、驚いただけよ」  確かに、震えはあの一瞬で、今は何でもないといった様子に見える。 「本当に?怖がらせていない?」 「怖くなかったと言えば嘘になるけれど……もう大丈夫だから、やめないでちょうだい」 「怖いのに?」 「だって、初めてだもの。何だって、最初の一歩を踏み出す瞬間は怖いでしょう?」 「確かに」 「でもね、わたくし、好奇心が勝ってしまう。恐れながら踏み出したその一歩が、素敵な二歩目へと変わる事に賭けるの」 「じゃあ今は……賭けてみようと思っている?」  そう問いかけた僕の目に映るのは、好奇心を宿した美しい瞳。 「ええ。だから、その先も見せて。お願い、わたくしを、最後まで連れて行って」  僕でさえ知らない僕まで暴かれてしまいそうな、底なしの好奇心。でも、ご令嬢になら、全て曝け出しても構わない。僕は素直にそう思った。 「……分かった」  そう答えた瞬間、僕の中から、僕を必死で押し留めていたものが消えてなくなる。
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