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そして彼はこの家の長男。年は二十二歳と言っていなかった、だろうか。どう見ても、目の前の少年は十歳前後にしか見えないのだが。
『正確には取らないわけではないのだ。我らの性質でな。外見年齢が、竜の力が強く目覚めた時点でほぼ固定されてしまうのよ。予は二十六歳で覚醒したゆえ、この見た目のままほぼ変わらないで年を取ることになってしまった。そして、竜の一族は背が低く、人間としては華奢であることが多い。……先祖にメスしかいなかったせいだと言われてはいるが、理屈はわからん。妻よりも小さいのは少々残念なことであるがなあ』
ついさっき、バイロンが言っていた言葉が蘇る。
もしや彼は――あの見た目であるのは、つまり。
「驚かれたであろう?」
バイロンはエミルを振り返り、苦笑したのだった。
「我が息子オスカーは、十歳で竜の血に目覚めた。その結果、見た目がほぼ十歳で固定されてしまったのだ。……政略結婚であるのは重々承知している。それでもそなたを、オスカーの妻として迎えたいと思った理由はそこにもあるのだ。いくら実年齢は二十二歳でも、見た目が十歳の夫を迎えたいと思う妻はそうそうおるまい。だが、そなたならば……鬼の血を引くそなたならば、そのような差別や偏見なく、オスカーの家族になってくれると思ったのだ」
「そういうこと、だったのですか……」
確かに、これは結婚相手を見つけるのも至難の業だろう。黒髪の少年――実際の年齢的には青年だが――オスカーは、転びそうになりながらもテトテトとこちらに駆け寄ってくる。そして、透明な硝子の戸を開くと、鈴が鳴るような高い声で告げたのだった。
「大変申し訳ありません、お父様、エミル様!……その、先ほどの怪物はどうなりましたか?さきほどから音が何も聞こえないのです」
彼は不安げに、それでもしっかりした声で告げた。
「とにかく対抗できるモンスターを早急に作り出さねばと、次の絵を描いていたのですが……もしや、どなたかが対応してくださったのでしょうか」
「その通りだ、オスカーよ。感謝するがよい、そなたの花嫁となる女性が助けてくれた。彼女、エミル・オーガストが召喚獣を倒してくれたぞ」
「ええ!?あ、貴女様が!?」
オスカーは驚いて、それから見上げるほど大きなエミルの姿を見つめたのだった。視線の高さが段違いである。彼に真正面に立たれると、エミルは首が痛くなるほど視線を下げなければいけなかった。
「初めまして、オスカー様。私が、今宵馳せ参じたエミル・オーガストでございます」
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