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彼等が生き残るための隠れ蓑として類人猿を進化させ、そこに紛れて生活するようになったと。より長く隠蔽するために、進化した人類たちと交配し、人間の姿に化けることを選んだのだと。
それゆえに、彼等は高い魔力と魔法を維持しつつも、ドラゴンの姿に戻ることが困難となった。人間の血が濃くなった体では、ドラゴンの姿やそのままの能力は負担が大きすぎる。実際、血に目覚めた時に一瞬ドラゴンになっただけで、オスカーは死にかけた。そうだ、本人がそう言っていたではないか。
ということは、つまり。
「ひょっとして、ドラゴンを本格的に召喚するには……貴方もドラゴンの姿に戻らないといけないと、そういうことなのですか?」
「はい」
エミルの言葉に、オスカーは頷いた。
「ガワだけの召喚ならば、人の姿のままでもいけるでしょう。しかし、本格的に敵を攻撃し、脅威となるだけの本物のドラゴンを召喚しようとしたならば……わたくしはすべての力を解放し、ドラゴンの姿に戻らなければいけません。そしてそれは、一瞬戻るだけでも足りません。……間違いなくこの身は耐えられないことでしょう。ドラゴンを召喚し、敵を制圧したところで……わたくしの命も燃え尽きます。ほぼ確実に、です」
なぜ、とエミルは言葉を失う。
なぜ、彼はそのような話を、笑顔で語ることができるのだろう、と。
もうじき、北の大国がこちらに攻め入ってくる。ドラゴニスト王国とオーガスト聖国は結託して立ち向かわなければいけない、それもわかりきっている。そのリミットが、恐らく半年ももたずに訪れるだろうということも。それから、その北の大国に対抗するためには、ドラゴンを呼ぶ究極召喚の力が必要だということも聞いている。でも。
「なん、で」
ようやく、震える唇で紡ぎだせたのはその言葉のみだった。
「なんで、教えてくださらなかったのですか?そんな、大切な、こと……!」
「貴女が心優しい女性だとすぐに分かったからです」
オスカーは静かな声で告げた。
「わたくしを殺す魔法だと知っていれば、貴女様はきっと、究極召喚を作るための研究に協力してくださらなかったでしょう?」
「あ、当たり前です!だって私は……!」
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