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ドラゴニスト王国では、花嫁が異国から嫁入りする場合は車――今回御料車に乗っているのは、国家ぐるみの儀式であるからだが、そうでない場合も嫁入りの場合は特別な車を用意することが多いそうだ――を使って、花婿のところまで行く。その際は基本的に緑色のカラードレスを纏い、頭に花を模したティアラ(本物ではなく作り物だが)乗せて行くのが通例らしい。
そして花婿の家、もしくは婚礼儀式場で来たら、花婿と二人で聖堂に一晩籠る。
翌日花嫁と花婿が正式な婚礼のための衣装に着替えて、身内だけの結婚式が行われるという。友人知人を招いて盛大な披露宴をやりたい時は基本的に日を改めて行われるのだそうだ。
「エミル様」
「!」
隣に座る執事は、エミルより頭一つ分小さかった。立派な口髭の老紳士である。花嫁の迎えによこさせるのだから、花婿の家でも信頼の厚い人物なのだろう。
「我が、ドラゴニスト家について、どれくらいの知識をお持ちでしょうか?」
「ドラゴニスト家?」
「ドラゴニスト王国にて、ドラゴニストの苗字を持つのは王家ではないのです。というのも、かつてドラゴニスト王国を統べていたのは、ドラゴンの血を受け継ぐドラゴニスト家だったのですから。やがて、何代か前のご主人様が人々に統治をゆだねようとお考えになり、王の役目を現在の王族……元はドラゴニスト家に仕える身分であった、エレメント家に譲ったのでございます。そして、ドラゴニスト家は政治の世界から引退し、その代わり魔術師として王家を支える立場に収まったというわけでございます」
「なるほど。それでも国名に、ドラゴニストの名前は残ったということですね」
「その通り。今の王家、エレメント家は王様でありドラゴニスト家より立場は上でございますが……王家に対するドラゴニスト家の影響力は未だ非常に強いものでございます。蜜月関係と言ってもよろしいかと。むしろ、歴代の王の皆さまは皆、ドラゴニスト家に一定の敬意を払って、重宝してくださる傾向にございますので」
「……なるほど」
どうして政治の世界から引退し、あくまで王家を補佐するという立場になったのか。多分、当時のドラゴニスト家の主がリーダーに向いてなかったとか、あるいはエレメント家の人がとっても優秀で国を立て直すのを任せたかったとか、まあそういう理由があったのだろうと推察される。
なんにせよ、現在の関係性を見るに、穏便に王位継承が行われたということだろう。関係が悪化していたのなら、そもそも国名にドラゴニストの名前を残すような真似はすまい。
「ドラゴニスト家は、元々ドラゴンの力を引き継ぐ一族で……魔術に秀でていて、国を長らく守ってきた存在だと聞いています」
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