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この執事に喋ったことはすべて、国やドラゴニスト家の旦那様にも筒抜けになる可能性がある。ゆえに、慎重に言葉は選ばなければなるまい。
「その、つかぬことをお尋ねしますが。ドラゴニスト家の皆さんって……人の姿をして、らっしゃるのでしょうか?」
「と、いうと?」
「あ、その、えっと……私はドラゴニスト家の王子様に嫁入りするわけですから。夫婦になるともなると、夜のあれこれとかも……ある、でしょうし」
つい、品のない話をしてしまったが大事なことではある。なんせ、自分が想像するドラゴンという生き物は、アニメに出てくる姿そのままのだ。ようは、見上げるほどの巨体のイメージなのである。
ぶっちゃけそんな相手と、子供を作るような行為が可能なのかどうか。というか、そもそも生殖機能があるということからしてびっくりと言わざるをえないのだが――。
「ぷっ」
すると。厳格そうに見えた執事は、その場で噴き出してしまったのだった。
「ふふふふふ、はははははは、はははははははははは!そ、そうでございますね、確かに、竜の一族ともなると、そういう想像をされることも少なくないのかもしれませぬ。いやいや失敬、まさか、そのあたりも教わっておられないとは………ぷくくくくく」
「ちょ、ちょっと!何がおかしいんですか!そ、そりゃ品のない話をしましたけど、花嫁的には死活問題で……!」
「ははははは、はははははははっ……いやいや、失敬失敬。申し訳ございません、エミル様。ああ、いや、うん。そうですね、竜といえば、メディアやおとぎ話のイメージも強いことでございましょう。ふふふふふ……」
彼はどうにか話そうとしているが、それでも笑いが止まらないのかずっと肩を震わせている。エミルとしては当然面白くない。こっちは大真面目に質問しただけだというのに!
ぷくー、と頬を膨らませるエミル。見れば、前を向いたままの運転手の肩も微妙に震えているような。一体全体、なんだというのか。
「そうですね、お話しておくべきですね」
やがて、少し笑いの発作が収まったであろう執事が口を開いたのだった。
「ご安心ください。……ドラゴニスト家の皆さまは、貴女が思うような方々ではございませんからして」
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