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「あはははっ、いやいやいや、失敬失敬、ご当主様。黙っていた方が面白いことになるかと思いまして。どうやら、思っていた以上にオーガストの政府から何も聞いていらっしゃらないようですから。ええ、知らないで見た方が、きっと面白いと思っていただけそうだと。ちょっとしたサプライズですとも」
「そういうサプライズなんぞ、相手は求めていないと思うんだがな、まったくお前は。給料減らすぞ?」
「ああ恐ろしい!それだけはご容赦くださいませ、ご当主様!私はまだまだ買いたい本がたくさんあるのです。あと部屋に最新式の家電をですね!」
「まったく反省してないなコイツ」
笑い上戸になっている執事と、それに渋面をつくって突っ込む現当主。そのやり取りだけで、彼等の普段の関係性がわかるというものだ。つまり、身分や主従の垣根を越えて親しい間柄、ということだろう。
メイドや執事たちを無下に扱わない。使用人とも友のように接することができる。それが現当主というのは、なかなか印象が良いことではある。相変わらず、どんなに見てもバイロンの顔は二十代の青年にしか見えないので、だいぶ脳がバグってきてはいるが。
「……客間に案内しながら説明しよう、こちらへ」
「は、はい……」
まだ笑いが止まらない様子のドリトンの背中をバシーン!と一発ぶっ叩くと、当主バイロンはエミルを門の中へ招き入れた。
――す、すごい……。
黄色のタイルが、門から屋敷の玄関へまっすぐ伸びている。右手に見えるのは立派な噴水広場だった。真ん中から噴き出す水が、太陽の光を浴びてキラキラと輝いている。安全な水であるからなのか、青い鳥が一羽、二羽、三羽と飛んできては喉を潤していた。
白い縁石の周辺には、深緑色のベンチが設置されている。この庭園で噴水を眺めながらお弁当でも食べたらさぞかし気分が良いことだろう。今日のように、空が抜けるように青い日なら尚更に。
左手には、バラ庭園らしきものもあった。薔薇のアーチがあり、奥には生垣らしきものが見えている。アーチを飾るのは白い薔薇だ。今にも零れ落ちてしまいそうなほど大輪が、新しくやってきた客を歓迎するかのごとく咲き誇っている。当主が薔薇好きなのだろうか。
「あの薔薇、眼を楽しませるだけではないのですよ」
背中をさすりながらドリトンが告げた。
「実は食用で、食べることもできるのです」
「え、食べちゃうんですか!?」
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