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どうやら庭の手入れか何かをしていた使用人が捕まってしまったということらしい。警備兵たちがわらわらと集まってくるのが見える。頑強な装備を持った兵士たちが、一生懸命銃で怪獣を攻撃しているようだった。ぱららららら、とマシンガンのような射撃音も聞こえる。しかし、怪獣には一切効いている様子がなかった。
ただうっとおしそうに足を踏み鳴らすばかり。そしてその振動で、すぐ傍にいる兵士の数人は立っていられず転んでしまっているようだった。あれではまともに狙うこともままならないだろう。ただでさえ、メイドが捕まってしまっている。彼女に当てないようにより強力な散弾銃系の武器を使うのは――至難の業ではなかろうか。
「……バイロンさん!」
迷っている暇はない。エミリアは花の冠を外し、歩きにくいハイヒールの靴を脱ぎ捨てた。
「申し訳ありません。せっかくのご用意いただいたドレス、汚してしまうかもしれないですが……ご容赦ください!」
「え、エミル!?何を……!!」
「救出して参ります。恐らく、私にしかできないことですから……!」
窓を開錠し、開け放った。途端、ぶわっ、と強い風が顔面から吹き付けてくる。エミルはひらひらしたドレスのスカート、その裾を結ぶと窓から外へ飛び出した。客間は一階なので問題はない。まあ自分の場合、三階くらいからなら飛び降りても大した問題にならないこともわかっているが。
自分には武器はない。それを扱うスキルはない。
それでもこの大きな体と、強い力、皆を守るために学んだ格闘術がある。なんのために己が鬼の先祖返りとして生まれたのか――それはいつも、誰かを守るためだと教わってきたのだ。それが己の存在意義だと。だから。
『姉ちゃん、姉ちゃああああん!』
『このクマ野郎!私の弟を、離せええええええええええええええええええええええええええ!』
あの時と同じ。例え、誰かに恐れられることがあっても、嫌われることがあっても、己の信念は貫き通そうと決めていたのである。
そう、己が己の力を、強さを、信念を肯定できなければ。果たしてそれは、生きていると言えることなのか。誰かに愛される資格を持てるというのか。答えは、否だ。
「兵士の皆さん、退いてください!非戦闘要員の皆さんの避難をお願いいたします!」
「あ、あんたは……!?」
警備兵のリーダーらしき男が、突然屋敷から飛び出してきた女を見て目を見開いている。女にしては妙に大きく、しかも明らかに動きにくいドレス姿。緑色のカラードレスが婚礼前夜用のものだと知っていたのなら、ますますびっくりしたことだろう。
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