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だが、細かいことを説明している余裕はない。エミルは彼に一言だけ告げることにした。
「今日から……このドラゴニスト家の一員となる者です。あのモンスターは、私が倒します!」
直後、怪獣が足を踏み鳴らしてきた。エミルは飛び上がることで、大地の衝撃を回避する。そのまま、怪獣の右手首あたりに強烈なキックを見舞った。
表皮がかなり堅そうな印象だが、さっきからこの怪獣は手足を器用に動かしている。体中ががちがちの表皮に覆われていたら、体を動かすことなどままならない。ということは、関節部分の皮膚は柔らかいはずである。
――ビンゴ!
その読みは正しかった。メイドを握っていた怪獣の右手首に、エミルの足が食い込んだ。間接の柔らかい皮膚を突き破り、骨にも重篤なダメージを与える。
「ギアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
どうやら怪物にも痛覚はあるらしい。濁った声で絶叫し、握りしめていたメイドの体を放してしまう。エミルはとっさに彼女の体を抱き寄せると、くるりと体を一回転させて地面に着地した。これで、彼女にはさほど衝撃が伝わらずに済んだはずだ。多少眼は回ったかもしれないが。
「大丈夫ですか!?」
「え、ええ。なんとか……」
「それは良かった。走れるのでしたら、このまま離れたところまで退避してください」
エミルは彼女を警備兵のリーダーに託すと、再び怪獣と向き合った。怪獣は眼を血走らせて、足を踏み鳴らして怒っている。なんともわかりやすく、好都合なことだ。こちらが怒りを買えば買うほど、他の人間達を標的にされずに済むのだから。
エミルは拳を構えてファイティングポーズを取ると、挑発するようにくいくいっと手首を返した。
「終わらせてやる。来い!」
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
怪獣が真正面から突進してくる。これだけ体格の差があるのだ――怪物が取ってくる攻撃方法は意外と限られたものになってくるだろう。手で掴んで握りつぶそうとしてくるか、噛みついて喰らうか、足で踏みつぶすか。そのうち、いきなり噛みついてくる可能性はほぼゼロだと思っていた。二足歩行の怪獣は、人間同様体のバランスがよろしくない。小さなものに噛みつくために身を屈めると、そのまま転倒する危険があるだろう。
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