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そして手で握る場合は、あまりに下の方にいる生き物だと同じリスクを背負うことになる。屋根の上にいる生き物ならば手で握りつぶせば早いだろうが、地面の場合なかなかそうもいかない。となれば、一番簡単に取れる攻撃方法は一つ――その巨大な足で踏みつぶすことだ。
――やっぱりな!
怪獣がその左足を振り上げて、エミルを踏みつけようとしてきた。なんともトロい動きである――隙だらけではないか。この有様で今までどうやって狩をしてきたのかと、他人事ながら不安になってしまうほどである。
エミルは振り上げられた足の下を走り抜けると、反対の足――つまり右足にタックルしたのだった。怪獣の体は非常にバランスが悪かった。もう少し胴長だったなら隙も小さかったことだろう。片足を振り上げた状態で、残る軸足にタックルを受ければどうなるか。――それも、怪力と自覚するエミルの手によって、である。
ずるん、と右足が滑るのが見えた。太い足を両腕でがっしり捕まえると、アメリアはそのまま腹の底に力を入れて踏ん張る。そして。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
思い切り、ぶん投げた。この屋敷から少し離れた方、森の方へと。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
山の斜面に思い切り激突する怪獣。濁った悲鳴が木霊し、空気がびりびりと震える。何本もの木々がなぎ倒されて行くのが見えた。思った通り、仰向けに倒れた怪獣は起き上がれないようだ。山の斜面に後頭部をぶつけたダメージもあるのかもしれないが。
――よし、このまま首を叩き折れば、終わる!
アメリアが屋敷を書こう塀に飛び乗り、森の方へ走っていこうとしたその時だった。しゅうううう、という白い煙が怪獣の全身から噴き上がってくる。そして。
「え……?」
思わず目をつぶって開いた時にはもう、その巨体は影も形もなくなっていたのだった。
まるで、魔法の効力が切れたかのように。
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