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何が悪いのかも分からずに、ひたすら謝罪を繰り返したのだ。許して欲しい、認めて欲しい、自分を人間として見て欲しい一心で。
『ごめんなさい……ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ!お願い、お願いです、私が悪かったから、だからっ』
だから、ゆるして。
あの日のトラウマが蘇り、血の気がひいていく。
「ご、ごめんなさい、私……」
あの日と同じ恐怖を、謝罪を繰り返そうとした時だった。
「ありがとうございます……っ!」
「え!?」
メイドの、おさげ髪の少女は。そばかすの顔を涙でくしゃくしゃにして、エミルの手を握りしめてきたのだった。
「わたし、もうだめかと思いました……!貴女がいらっしゃらなかったら、きっと死んでいました。あの、貴女様は……今宵ドラゴニスト家に嫁がれたという、オーガスト家のエミル様でいらっしゃいますよね?」
「え、ええ?そうですけど……」
「ありがとうございます、本当にありがとうございます!なんて素晴らしいお力なんでしょう。人を守ることができる力なのでしょう!貴女様ならきっとこの家を、我が国を救ってくださいます。感謝してもしきれません。ありがとうございます、本当に本当に、ありがとうございます……!」
彼女だけではなかった。駆けつけていた使用人たち、警備兵たちが皆。一斉に頭を下げ、あるいは敬礼してきたのである。
「ありがとうございます、エミル様!」
「心より感謝申しあげます、エミル様!」
「やはり貴女様こそが英雄……!」
「ようそこドラゴニスト家へ!」
「ありがとうございます、ありがとうございます!本当にありがとうございますっ!!」
まるで怒号のような御礼の言葉と、割れるような拍手。あっけにとられてしまったのはエミルの方だった。自分の戦いぶりは恐ろしいものではなかったのか。異様ではなかったのか。人間の領域を逸脱していたのではなかったのか。
幼いあの日は、弟を含めた家族しかエミルがしたことを讃えてはくれなかった。でも、今は。
「エミル嬢!」
屋敷から飛び出してきたバイロンが、恭しく頭を下げて告げたのだった。
「そなたの勇気と力に、ドラゴニスト家当主として心からお礼を申し上げる!そして、改めてお頼み申し上げたい」
彼の美しい青い瞳に、エミルのぽかんとした顔が映っている。
「どうか、我が息子を……オスカーを救って欲しい!」
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