<8・感謝。>

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 ***  薔薇の迷路のところまで来て、エミルはわあ、と眉をひそめた。迷路の奥がぐしゃぐしゃに破壊されている。地面が崩れ、薔薇や茂みが踏みにじられたようになっているのだ。  そして崩落した地面の下には、灰色のコンクリートの通路のようなものが。もしや、と目を見開いた。さっきの怪獣はまるで庭に突如湧いて出たかのように見えていたが――ひょっとして、ここから這い出してきたのだろうか。 ――というか、庭園の下に地下通路?これ、どこに続いているの?  エミルは相変わらずドレス姿だったが、靴は履きやすいものを貸して貰っていた。いつまでも花嫁が裸足姿ではと思ったのだろう。今は、ドレスとはあまりにも不似合いなローファーを履いている。スニーカーと比べると足がゴツゴツしたが、ハイヒールよりは幾分マシだ。多少飛んだり跳ねたりできそうなくらいには。 「ドラゴニスト家が魔術師の家系であることは、そなたも知っているであろう?」  大穴を覗きこみながら、バイロンが告げた。 「かつて銀河を支配したという覇者のドラゴン。その末裔が、我らドラゴニスト家と言われている。まあ事実がどうかなど伝説であるからして確かめようもないが……少なくとも我々が生まれついて、高い魅力を持っていること、大昔にこの国の王であったのは間違いないことだ。人間たちに支配権を譲って、今の地位に落ち着いたというのもな」 「はい、それは存じております」 「魔法が使える一族は我ら以外にも存在している。にも関わらず、我らが他の魔法使いと一線を画す存在とされているのは……我らが最も難しい、“召喚魔法”の使い手であったからだ」  召喚魔法。急にライトノベルみたいになってきたなぁ、と心の中で呟くエミル。 「不死鳥みたいなのとか、海の怪物とか、神様とかを呼び出して戦わせることができるってことでしょうかね?」  彼らもドラゴンなのに、ドラゴンを呼び出すと言われたらなんだか妙な気分になってしまう。思わず正直な感想を述べると、大体間違ってはいないが、とバイロンは笑った。 「この世界にもモンスターはいる。それを呼び出し、あるいは従属させて戦わせる者はいる。しかし、我らの召喚魔法はその領域ではない」 「と、言うと?」 「異世界から神格を、悪魔を、天使を呼び出すことができるのだ。同時に、自分達にとって都合のよい力を持つ召喚獣を作り出すこともできる。世界広しといえどここまでの召喚魔法が扱える一族はドラゴニスト家のみよ。そして……我が息子オスカーは、その中でも最も優れた素質を持つ者と言っても過言ではない。鬼の先祖返りがそなたであるならば、竜の先祖返りはオスカーなのだ」
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