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エミルはスカートの裾を掴んでうやうやしく礼をした。確か、ドラゴニスト王国ではこれが女性貴族の一般的な挨拶の仕方、だったはずだ。いかんせんオーガスト聖国とは様々な意味で文化が違う。多少は事前に勉強してきたつもりだが、それでも抜けがないとは言い難い。間違っていなければいいのだが。
「鬼の一族ゆえ……少々普通の女性より体が大きいのです。これからもまだ身長が伸びてしまうかもしれません。なるべくオスカー様にご配慮させていただきたく存じますが、もし不手際がありましたら……」
「なんて格好良いのでしょう!」
「え」
オスカー少年は、エミルの足先から頭までを見上げて、眼をキラキラと輝かせたのだった。
「し、失礼!わたくし、このような見目ですので身長が伸びなくて……背が高い方にとても憧れていたのです。しかも貴女様は、わたくしが生み出してしまった召喚獣を倒されたと……。鬼の一族はとてもお強いと聞いてはおりましたが、噂通りであったのですね。なんて素晴らしい!このような素敵な方がわたくしの花嫁様になってくださるなんて、オスカーは心から感激しております!」
「そ、そんな……」
ここまで真正面から人に褒められ、好意を向けられたことがあっただろうか。いや、家族から褒められたことならいくらでもあったが、目の前にいるのは出会ったばかりの赤の他人である。
そう、ドラゴニスト家の家族や使用人たちはみんなそうなのだ。大柄すぎるエミルに驚くこともせず、圧倒的な怪力を示しても怯えることなく、むしろ素晴らしいと受け入れてくれる。
確かに、自分の強さは、戦いにおいては必要なのかもしれない。防衛力と国との結束を高めるために求められるものであるのかもしれないが――それでも多くの人間は、理解ができない力を恐れ、差別するものだ。自分が持っていないものを持つ人間に対して、人がする反応は嫉妬か攻撃の二択しかないはず。今まで生きて来た人生で、エミルはそのように学んできたというのに。
「……私を、受け入れてくださるのですか?オスカー様は」
「勿論です!ただ……」
オスカーは恥ずかしそうに俯いた。
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