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「町ぐるみどころか、国ぐるみの話になるわね。うちの町長が、大統領、および多くの政治家と懇意にしていることは知っていたけれど……」
説明を求めるように、母が父の方を見る。此処から先は母にも事情がわからないことだろう。
果たして、父はどれくらいまともな説明を受けたのか。気になるところではある。
「今、母さんが話してくれた通りだ。我がオーガスト聖国はかつて鬼が支配していた国。そして隣のドラゴニスト王国は竜が支配していた国として知られている。今、我々二つの国の関係が良好であるのは、皆も学校の授業やテレビで習ったことだと思う」
良好どころか、蜜月関係に近い。両国は南側が海に面しており、それぞれ西がドラゴニスト、東がオーガストという位置で隣り合っている。二つの国は貿易も物流も盛んであり、観光客の行き来も多い。この二国間ならば、税金なども一部免除されるのは有名な話である。
そして何故、この両国が関係を強めているのかといえば。
「……北の大国に、対抗するためなのですよね?オーガストとドラゴニストが蜜月関係にあるのは」
「その通り」
エミルの言葉に、頷く父。
「北の大国……ガンブレイズ帝国は軍事国家として有名だ。とにかく、軍事力増強に力を入れている独裁国家。……少し前に起きた、トロール連邦への軍事侵攻の話はお前たちも知っているだろう。精霊の加護を持つ小国を、圧倒的な軍事力で踏みつぶしてしまった。恐らく、あの国にあった精霊の力を手に入れ、より国力を上げるために」
知っている。エミルは唇を噛みしめた。ラジオでもテレビでも、残酷なニュースは散々耳に入ってきていたからである。
灰色の大地を、逃げていく人さえ轢き殺しながら進む戦車。
民間の小さな漁船や釣り船までも関係なく、圧倒的火力で放火し撃沈させていく戦艦。
そして空から絶望と共に姿を現す戦闘機と、雨のように降ってくる爆弾の数々。――平和的で大人しい小国が落ちるまで、三か月とかからなかった。ガンブレイズ帝国が国際社会から大きな批判を浴びたのは言うまでもない。
それでも彼らがへっちゃらな顔をしている理由は、彼等の軍事力を周辺諸国も恐れているからに他ならないのだ。下手な経済制裁でもしようものなら、今度は自分達の国が標的にされかねないから、と。
「オーガストもドラゴニストも、戦争なんてものは望んでいない。だが、相手が侵略してくるとなった場合は……こちらも黙ってやられるわけにはいかない。何がなんでも手を尽くして、故郷を守るため戦わなければいけない」
「それはわかります。それが、この婚姻とどのような関係があるのです?」
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